Target 21 風紀委員になりました
私の朝は、奇妙な目覚まし時計の音で始まる。
『おい姉ちゃん、金ださんかい…。何、用意できねぇだとぅ? だったら体で払ってもらうしかねぇなぁ ウヒヒヒ』
「勘弁してください…私の体に目立ったでこぼこはありません〜〜〜〜」
と、不良の脅しで目が覚める。
「ッ、今日は何てありきたりな不良の声だったんだ…!」
つい最近、目覚まし時計を落として割ってしまったので新しく買い換えたのが…コレだった。
“面白い目覚ましシリーズV 人が恐怖を感じる声でドッキドキ☆365”。
驚きなのはこの365って書いてあるだけに、リアルに365種類の台詞があるのだ。
この前はひたすら大音量の女の叫び声だったので、大家さんが冷や汗流して様子を見に来てしまった。
その時は誤魔化すので必死だったけれど、すごい目で見られて心が痛かったよ…。
お母さん、娘は意味不明なものに手を出してしまったと、絶賛後悔中です。
とは言えどせっかく買ったんだ。365種類聞くまでは買い換えないと心に誓った。
さて。
いつも通り制服に着替えて、机においてあった腕章を取る。そしてそれを見て…
「ニヘヘヘ〜」
頬がかなり緩んだ。
そう…私も晴れて風紀委員になったのよ! ええ、風紀委員に! 雲雀さんと一緒の風紀委員! 天下無敵の(以下略)
これがテンションあげられないで居られますか!
へんな目覚ましで起きようが、大家さんに疑惑の目を向けられようが…これがあれば生きていける!
そう、これさえあればご飯3杯はヨユー(そういう意味じゃない)
腕に通してピンで留める。
これで私は風紀委員だ!
「いってきます!」
返事の無い部屋だけど、私は寂しくなんて無い。
もうすぐ、夏休みだ。
*
「ツナー、おはっよー!!」
もうルンルン気分で通学路を通っていると、前方を歩く茶色い髪の毛を発見!
私は小走りで近づいて、軽くツナの肩を叩いた。
「おはよう、。いつもながら元気だね」
「今日は当社比でいつもより二割増しで元気だよ!」
「当社って何ー!?」
「有限会社比較研究所?」
「どこだよ!」
うん、ツナのつっこみも相変わらず冴え渡ってるね!
いつも通りのツナに頷いていると、ツナは私の左腕を見て
「な、なんで風紀委員の腕章!?」
いつも通りのツッコミパート2! 効果はばつぐんだ!
なーんて脳内で某ゲームの戦闘シーンを思い起こしている私はかなり余裕。
そうしてツナの顔を見て、恐らく史上最強の惚気た笑顔を見せたと思う。
「えへへ〜、私も今日から晴れて風紀委員なんだ! 雲雀さんの傍に居られる〜!」
「だ、だってその腕章つけてると皆に怖がられるんだよ!?」
「ん? ああ、大丈夫! ツナたちは怖がらないんでしょう?」
ニッと笑えば…そりゃそうだけど、と呟くツナ。
「ボスと雲雀さんが嫌わないのなら、それでいいよ! そ・れ・に、ツナの好きな京子ちゃんはそんなことで人を避ける子かなー?」
ニヤニヤ笑いながらそういえば
「なっ、京子ちゃんはそんな子じゃないよ!」
ちょっとムッとして否定するツナ。うむ、惚れてるねー青春だねぇ!!
「でしょー? だったら大丈夫でしょ!」
「が言うならいいけど…獄寺君が何か言いそうだよね」
「あー、イチャモンつけてきたら流す。それでも喧嘩売って来るなら買うからさ!」
「買わなくていい! 学校は平和に過ごそうよ!」
平和は全世界共通で望まれてることなんだよ!?
うん、一部地域を除いてね☆
とにかく、ツナの信頼を得ることが出来た私は校門の前に差し掛かって…足を止めた。
いやいやいやいや…私今日から風紀委員なんですよね。
今目の前で、遅刻者取り締まってるのも風紀委員だよね!?
「もあんなこと、するんだよね」
「私が遅刻しそうだよ…」
とにかく、今日は何にも呼ばれてないし…スルーだスルー!!
そう思ってツナの背中を押して進んでいると
「待て!」
呼び止められました。ああ、やっぱシカトはしちゃいけなかったか…!
「ツナ、先に行ってくれぃ」
「う、うん分かった…生きて帰ってきてよ!」
んな物騒なことを言うんじゃないよツナー!!
私は生きる! どんなことをしてでも生き残って見せるからねー!!
…さぁ、私は意を決して後ろを振り返った。そして振り返りざまに頭を思い切り下げた!
「すいません! 新入りのくせに仕事をサボってしまって!
もーお叱りでも、ゲンコでも、なんなら肩揉みとかもするんで雲雀さんにだけは言わないで下さい後生ですので!!」
「いや、そういうことじゃない、んです! 姐さんッ」
……What!?
今なんていったんだ、この人。
私は頭を上げて首を傾げた。どう見たってこの人は私より先輩。なんてたって、私は1年生だよ? 同級生ってこともないだろうに。
なのに、姐さん!?
「馬鹿野郎っ、姐さんを戸惑わせるような発言は慎め!」
「ハッ、申し訳無いっ!」
「い、いやその…とにかく、なんですかその姐さんってー!!」
私がまるで不良みたいじゃないかっ!
ああ、でも彼らは不良だからこうなるの? うわーん!!
「俺らより強い副委員長に勝った…」
「そして、あの委員長が咬み殺さずに風紀委員として認めた人」
「「これを姐さんと呼ばずして何と呼べますか!!」」
「いや、フツーに呼べるだろ!?」
恥ずかしいよ、姐さんって!
「普通だなんてそんな! 俺たちは下っ端です…」
「下っ端って…私なんて新米のペーペーですよ!? 後輩なのに…嫌じゃないんですか」
「嫌だ何てとんでもないです! 姐さんに従うこと…これ以上光栄なことは無い!」
「「一生姐さんについていきます!!」」
「ついてくな!!!」
皆して声をそろえて言うな! 恥ずかしいって言ってるのに!!
「…あの、ほんと、姐さんとかいいですから! というか勘弁してくれ。あなた達は草壁さんや、雲雀さんを敬愛すべきです! 私じゃなくて…」
「おお、謙遜までされるとは…控えめな方ですね!」
「謙遜じゃない、素直な気持ちだって! あーもう、どうしたら伝わるのさぁあ!!」
私の左腕の腕章が、妙に寂しく風になびいた。
*
「ってことで何とかしてくださいよ、草壁さん!」
「俺にどうしろと言うんだ。あいつ等が勝手に呼んでいるだけだが…」
「姿見られるたびに姐さんって呼ばれたら溜まりませんよ〜!」
もう青春の人生、お先真っ暗です!!
今、応接室にて草壁さんに泣きついている最中です。
でも草壁さんは、「仕方ない」と私を放置してきます…酷い、酷いぞ草壁さんッ!
今日1日、見回りしてる風紀委員に
「ご苦労様です、姐さん!」とか「姐さん、お荷物お持ちしましょうか!?」とかいちいち絡んでくる…!
ツナなんてすっごーく遠くから「頑張って」的な目線を送ってくるし、
山本は山本で「って、あーいうのにモてるのなっ!」とかちょっと失礼なこと言ってるし、
獄寺はそう! 隣の席で「テメェはうぜぇからあいつらと群れてろ!」とか暴言吐いて来るし!
京子ちゃんは…いつもながらに「すごいねぇ」と、ほのぼのしてるんだけど
花ちゃんは若干引きつつ「アンタって本当になんなの?」とか私の生態疑ってきたよ!
ただでさえ、左腕の腕章でみんなビクビクしてるのに…さらに悪化だよ!
「負けた奴が下につくのは、ここでは常識だぞ?」
「じゃあ草壁さんまで私のこと姐さんと呼ぶんですか!?」
「…呼んでほしいのなら呼ぶが?」
「結構です! 呼んだらその素敵リーゼントにピア挿入させますから!」
…いや、そんなことしたら額に届いて死んじゃうからしないけどさ!
冗談ですよ、草壁さん。何で咄嗟に距離とって、本当にリーゼント守ってるんですかぁ!
「冗談通じません?」
「ならやりかねないと思ってな」
「私の性格を何だと思ってるんですか、草壁さん……」
私はそんなSMには興味は無いです!!
じゃあ他のSMに興味はあるんだな。
……草壁さんからSMと言う言葉は…出来れば聞きたくなかったよ…!
「とにかくだ。は事実上のナンバー2だから、諦めろ」
「…ナンバー3です。雲雀さんが頼りにしてるのは、草壁さんじゃないんですか?」
「委員長は、のほうが気に入ってると思うぞ。自信を持て」
「いやいや、そんなことないですってば!」
謙遜のし合いをしていると、応接室に雲雀さんが参上。
「と…草壁? 何してるの…」
ちょっと不機嫌そうな顔をしてる。あ、群れてると思われたのかな!
「草壁さんにお願いしたら却下されました」
「何を?」
「どうもは、俺や委員長以外の風紀委員に『姐さん』と呼ばれるのが嫌なんだそうです」
「へぇ」
「へぇ、じゃないです! 死活問題ですー!! こうなったら、雲雀さんの並盛最高権力でガツンと言ってください!」
雲雀さんのいう事なら、みんな聞いてくれるはず!
なんてったって、並盛一だし、ヘッドだし、最恐だし!
縋ってそういえば…雲雀さんはふっと笑った。
「別にいいよ」
「本当ですか!? いやー助かりま」
「言い訳は全部却下で、口も聞けないほど殴打してこればいいんだよね。何人かは病院送りかな?」
「え、あの」
「さて、だったら早い方がいい。咬み殺そう」
「ごめんなさい、おやめください、物騒なトンファーをお納め下さい、私が我慢しますから!!」
一息に思ってること全部言うと、また笑顔で「そう? ならいいや」とトンファーをしまう。
雲雀さん…ご機嫌なのか不機嫌なのか分かりません…!
とにかく私は今このとき、本当に救世主になった気がした…!
風紀委員の皆さん、あなた方の命はが守ったよー!!
「それより草壁、君は何でここにいるの?」
「へい、調査報告です。近頃、我が校の生徒に強請りをしている不良が居るとのこと。場所はゲームセンター近辺で、3、4人のグループだそうです」
「調査なんてしなくても、不良は片っ端から締め上げればいいのに」
確かにそっちの方が手っ取り早いな。なんて思った私は、人間的にどうなのかな…!
「もうすぐ夏休みだから、そういう人が増えてるんですかね。ほら、小遣い稼ぎに」
「そうかもしれんな。では委員長、この件は俺達のほうで片付け…」
「いいよ、僕が直々に行ってきてあげる」
……おお!! 雲雀さんが出撃です! 並盛の風紀を守る為……愛と正義の美少年、不良の頂点に発つ雲雀恭弥、いざ行かん!
なんて脳内でヒーロー戦隊物の登場シーンを思い浮かべてしまった…! 雲雀さんカッコイイ!
「、何してるの? 来ないの?」
雲雀さんはドアのところで振り返って、さぞ当たり前とでも言うように私を呼んだ。
え、わたしも一緒に行っていいの!?
「一緒ですか、私も!」
「だって君…“風紀委員”でしょ?」
ッ!!
「ハイ! ハイ! ハイ! もー地獄でも天国でもお供しますよ雲雀さんッ!!」
「うるさいよ。…僕は先に言って待ってるから、早く来るんだよ」
そう言って雲雀さんは歩いていった。
くぅ、あの颯爽と歩く姿を是非ムービーにとって家で鑑賞したい…!
「本当に、不思議な奴だなは」
「草壁さん?」
草壁さんまでも微笑んでいた。こ、これはレアかも…。
「あの委員長が、誰かと一緒になんて言ったことなかったぞ」
「まじですか? じゃあ、今日は相当骨のある不良が相手なんでしょうかね?」
「…いや、そういうことじゃない。もしかしなくてもお前は天然か?」
「もしかしなくてもそうだと雲雀さんに言われました!」
というか、天然って関係ないんじゃないでしょうか! 今、この話題では!
そう突っ込んでも草壁さんは笑ってる。くわえている草が落ちてしまいそうなほど。
くぅ…その顔に蹴りを入れて差し上げたい…!
「それよりいいのか? 委員長をお待たせして」
「ほぐゎ! もう行きますね!!」
私は思い立ったようにばっと顔を起こして雲雀さんを追いかける。
後ろではきっとまだ、草壁さんは笑ってるんだ。
*
「ここですか? 私、並盛に来てもう4ヶ月目ですが…まだ土地に疎いもので」
「こういうところには性根の悪い草食動物が群れを成して風紀を乱すからね」
そんで雲雀さんが、群れたところを一網打尽! 容赦なく咬み殺すんですね!
私がそう感心していると、店内から並中生が出てきた。
2人組の女の子…ああ、プリクラでも撮ってたのかなー青春だね!
そのあとはカップル、彼氏にUFOキャッチャーで景品取って貰って喜んでる、いいね幸せ。
…雲雀さんとあーいうのしてみたいよぅ! 多分一生かかっても無理だろうけどさ! 妄言ですね、はい!
「? 顔が変だけど」
「…失礼デスヨ!? この顔は生まれつき!」
「違う。僕が言いたいのは表情のこと。さっきからころころと表情が変わってる」
「ハッ! 雲雀さん見ていらっしゃったのですか!?」
覗き見なんて…ハレンチな!
堂々と見てたんだけど…というか、語句の意味履き違えてるよね?
うぅぅ、でも雲雀さんになら穴があくほど見られてもいいかもしれない…!
なんて変態の領域に片足突っ込んでると、雲雀さんが「来たよ」と言った。
覗き込んでみれば、ああ確かに。4人グループ、現在進行形でカツアゲされてる…。しかも相手は、カップルで来た並中生だ。
「くぅ、何と醜い! 自分たちに彼女が居ないからって僻んでるんですね!」
「ただのカモだよ……ほら、。あいつらシメるよ」
「りょーかい!」
私は腕章をもう一度確かめて、同じく左腕に腕章つけた雲雀さんの後を追った。
「ほらほら、可愛いカノジョを目の前で犯されるのと、金渡すのとどっちがいいんだよ、アァ!?」
「田中君ッ!!」
女の子は彼氏の名前を必死に呼んで…って、田中ァアア!?
「ひ、雲雀さん! 田中って入学式に雲雀さんが助けた(?)の1年生ですよ!」
「…ああ、あのときの腰抜け?」
「そうです、あの腰抜けです!」
「ちょっと! 聞こえてる! 助けに来てくれたのかと思ったのに、違うの!?」
私には少なくてもその意志はあるけど…雲雀さんにはそれれな皆無だと思う! 諦めろ少年!!
「まーあれだ。君、いっちょまえに彼女できたんなら…力つけようよ?
前も不良にボッコボコにされて、今回まで巻き込まれて…なんて不幸な腰抜けAなんだ」
「もう名前呼ばないつもりだね君! 僕の名前は田中ー!!」
「どうでもいいけど、余裕があるんなら逃げるなり死ぬなりしてくれる?」
つーか、二択が逃げるか死ぬかなんですね雲雀さん!!
雲雀さんはいつの間にか、女の子を捕らえていた不良を撲殺(未遂)をしている。
女の子はとうに解放されていた。
「ほれ、今度は腰を抜かしてる暇なんてないよ! 走って逃げろ!」
私が田中の背を押すと、彼は勇ましく彼女の手を握って走り出す。
「あ、ありがとう!」
「おいおい、なに逃がしてんだ! 俺達のカモを」
不良は怒って私に殴りかかってくるけど…私はそれを避け踵落としで地に伏せさせる。
ふ、どーよ私の美脚ショット! 喰らって幸せ? いやーそりゃよかった!
「ッ、この女ー!!」
「雲雀さん、この人たち私がやっても?」
「いやだ」
えーだって雲雀さんもう2人やってるじゃないですか! 現在2人目は雲雀さんがゲーセンの壁とキスさせてる状況。
くぅ、仕方ないなー!
「じゃあーパス!」
私はさらに襲ってきた仲間を足でなぎ払って雲雀さんのほうに飛ばす。
雲雀さんはニッと笑って「いい子」と私に言って…トンファーで不良を滅多打ちした。
うぅ、爽やかっ! かっこいい!
「僕の並盛で風紀を乱すなんて、いい度胸だね…君たち」
「私たちは風紀委員だから、こういうのは取り締まってますんでよろしく!」
「並中の風紀委員だったのか…!」
私の足元で、これまたコンクリとチューしている不良がそう呟いた。
「そーいう事、これ以上並盛で悪さしちゃ駄目ですよ?」
「く、まぁ…いい。イチゴ柄を目にして気絶できるなら本望だ」
…
……
………イチゴ柄、だとぅ!?
「…踵落としのときと、今…下着、バッチリ…見納めた、ぜ」
なんて失態!
雲雀さんにだけならまだしも…そこいらの不良にも見せてしまった!! つーか今も見てるのか!!
「いぎゃーー!!」
私は後ずさって雲雀さんのところまで行く!
「ひ、ひばりしゃん!」
「噛んでるよ、しっかり喋りなよ…」
「し、したっ」
「何?」
「乙女の神秘、第33番が雲雀さん以外の人物にも知られてしまいました! これ極秘事項なんですけど!」
「うん、分かった。とりあえず、あいつをぐちゃぐちゃにすればいいんだよね」
雲雀さん、心なしか鬼が背後にいらっしゃるようですが?
ドッ ガスッ ゲンッ バキィ!
…ごめんなさい、他校生の救世主にはなれませんでしたよ…。
「僕の風紀委員を汚すからこんなことになる…」
雲雀さん…私所有物ですか? うん、いいんですよ、私の全ては雲雀さんのものだ!!
「さて……もう動かなくてつまらないな」
ついに他校の不良たちはみんな動かなくなった。反応がない、ただの屍のようだ……いや、息はしてるけど!!
「、帰るよ。並中に」
「はいっ!」
そう言って私を呼んでくれる。これからずっと私、雲雀さんの隣に居られるんだね!