Target 13 結局バトルですか、雲雀さん!
ダッシュで並盛中まで向かう。何度か人にぶつかりかけて、その度に頭を下げた。
私の心の高揚はどうも収まらない、だって前しか見えないもん。
雲雀さんが待ってる、あの場所しか。
やっとたどり着いた学校で、私はとまることなく玄関に駆け込んだ。
帰る途中の生徒がチラチラ私を見てくる。決して忘れ物をしたんじゃないんだぞっ!
わき目も降らず階段を上りつめ…たどり着いた雲雀さんが待ってるはずだろう応接室。
「ハァ、ハァ、ハァ…ッ失礼しますッ!」
私は意を決して、ドアを開ける…。でも、そこに
「雲雀さん?」
雲雀さんの姿は、なかった。
なんでやねーん! 私はがくりと首をうな垂れて肩で息をする。
あー…こんなに走ったの久しぶりかもしれないよ…ふぃー。
「もしかして風紀委員の仕事中かな…。待ってた方が、いいよね?」
私は窓際まで歩を進め、そこからの景色を見た。
まだ夏本番と言うわけでもない、この微妙な季節。
壁にかけられた時計は5時を過ぎてる、日は少しずつ傾き始めてる。
「…どこ行っちゃったのかなー雲雀さん」
待ってるなんて一言も言わなかったし、帰っちゃった?
…でも、来ないと咬み殺すとも言ってったよね?
あー…雲雀さーん! 心のオアシスカムバーック!!
「暇だー。あ、もしかしたら叫んだら来るかなー。普通に叫ぶのつまらないし…」
私はすぅっと息を吸った。
「雲雀さーん、愛して―――」
「ワォ、僕は恋愛対象外だと思ってたんだけど」
「ひっ、雲雀さん!?」
大胆だね、君も。
そう言って教室に入ってきたのはまさに雲雀さんで。
笑ってる顔を見ると、何か知らないけど顔から火が出そうになった。
「いや、これは、違っ、ああーあれですよ! 自分の肝を試してみようっていう、だー!!
こうなりゃ開き直りますか、雲雀さんが好きですよ、えー好きですとも!」
「…嬉しくない告白の仕方だね、それ」
とかいって、楽しんでるじゃないですかその顔は!
やっぱ雲雀さんはSです、これ間違いない!
まーいいや、私は雲雀さんのこと好きなんだ。これも間違いないし!
「…そ、それで! 用件はなんですか?」
「(まだ顔が赤い…)ただ、君にチャンスをあげようと思って」
「?」
「僕の傍で戦いたいんじゃないの?」
「あっ」
「じゃあ」
雲雀さんはちゃっかりトンファーを構えてる…早っ!
「いくよ」
「ちょ、まだ準備できてなッ」
ヒュンッとトンファーが風を切る音がした。
しゃがまなかったら私の顔面にソレは当たっていた…やっぱ容赦ないいいい!!
「もしかしてもう諦めた?」
「ッんな訳ないですよ!」
挑発のつもりですか? だったら逆効果!
貴方に声をかけられればかけられるほど…私のやる気は増していくんだから!
こうなったら…。
私はスカートのポケットに入れていたものを手に取った。
リボーンから貰った…円柱のもの。
間合いを素早く確保しつつ、それを上に放り投げた。
「逃げてるだけじゃ…つまらないよ」
雲雀さんの素早い攻撃が迫ってくる、早く…早く来い!
「月凪…!」
私の声と同時に…円柱は刀身を現し、雲雀さんの足元に突き刺さった。
「…それは」
「新しい武器です。これで思う存分戦えますね!」
確保した間合いから、反動もつけずに一気に詰め寄った。
右手でレイピアを取り、雲雀さんの右脇を狙って突く。
案の定、雲雀さんは左に避けて…たぶん、私の後ろに回ってくる!
「ッ、動きは読めた!」
素早く後ろ回し蹴りをすれば…確かに何かにかすった!
体は捉えられなかったけど…、服にかすったのかな?
「やっぱり君は強いね、僕の動きを捉えれたんだ」
全くものともしてない顔で…私を見てる。あーもう、悔しいなぁあの余裕さが!
でも、さすが雲雀さん…。あの余裕さが、またカッコイイ…!
「雲雀さんがただ避けるわけじゃないってことは重々承知ですもん!」
もう一度レイピアを構えて…
「でも、私は負けたくないですから!」
雲雀さんに飛び込んだ。
かれこれ30分はやりあったかもしれない。
私は既にヘトヘトなのに…雲雀さんはまだまだ余裕な顔。
あー…やっぱつかめないよ、雲は。
そんなこと考えてたら、レイピアを弾かれて…私の左わき腹に蹴りが入って吹き飛ばされた。
何とか受身を取ったけど…突きつけられたのは私のレイピア。
ゲームオーバー…かな。
「…降参、です」
「だろうね。前の勝負以上に息が上がってるよ」
雲雀さんはそういいながらレイピアを下に降ろす。
ソレを確認した私は、すっと力が抜けたように床にへたり込んだ。
…私、よくこんな長い時間やりあえたなぁ!
「にしても…今日の雲雀さんは、なんか…ご機嫌ですね」
「…なんでそう思うの?」
「戦ってる最中も、今みたいに笑ってましたから…」
そりゃもう、眩しいぐらいに? いや、憎らしいくらいに!
「そういう君も…、苦しながらに笑ってたよ」
「楽しいんですから仕方ないんですよ!」
どんなに苦しくても、楽しければ自然と顔が綻んでいく。
それが雲雀さん相手ならなおさらのこと。
「そういうものなの?」
雲雀さんはいつのまにかレイピアから円柱のものに変わった月凪を私に投げ渡した。
「…そんなことより、ソレは何?」
「あ、月凪のことですか?」
「そう。そんな小さなものから武器が出るなんてありえないよ」
そうだよ、やっぱありえないよ。
放り投げて武器が出てくるなんて…ありえない。だけど…
「私にもよく分かりません…。貰ったものなんで」
「沢田綱吉に?」
「まっさか、ツナじゃないですよ。危険な赤ん坊にもらったんです」
「…へぇ、赤ん坊」
「…あれ? こっちには突っ込まないんですか?」
予想外だ。ふつう赤ん坊に貰ったなんていったら、それこそありえないって突っ込むでしょ!?
「ありえない事が立て続けに起こると感覚って麻痺するものなんでしょうかね」
「…それは僕に言ってるの?」
「いーや、そういうわけじゃないですよ。私が、そうなんです」
自分がこうやって雲雀さんと戦うなんて思ってなかった。
自分があの赤ん坊…リボーンに会うとは思わなかった。
赤ん坊が銃を使うとは思わなかった…。
ツナが実は超人だと思わなかったし、そんな人と仲良くマフィアやるなんて…。
「僕もまさか君がここまでやるとは思ってなかったよ」
「え?」
今なんていったんですか!?
「なんでもない。それより、帰らなくていいの?」
そうはぐらかされて、私は窓を見た。
ここに来てかれこれ1時間…18時をまわって、日は傾きだした。
夜道を歩くのは、さすがに応える…こんなに疲れてるし、早くは帰れない。
私は立ち上がって、ここから帰ろうと思ったけれど…。
「あ…?」
なぜだか、足に上手く力が入らない。うそ、腰抜けてるー!?
「何してるの?」
「いや、…なんでも」
「まさか、腰が抜けて立てませんなんて言わないよね?」
…ああ、まさにその通りでございますっ!
「疲れが…両足にかかっちゃったんでしょうか、ね」
「…君さ、そういう所は情けないよ」
呆れないでくださいよ雲雀さんッ!!
ため息突きつつ雲雀さんはこちらに歩いてきた。
傍においてあった私の荷物をとって、私の目の前でしゃがんだ。
私が雲雀さんを見上げようとした時…事件は起こった。
「あぎゃー!?」
「もうちょっと色気のある叫び声をあげなよ…」
体が宙に浮いています! 母さん、事件です!
ってのは嘘で、雲雀さんは私を抱き上げていました。そりゃもう、姫抱きです。プリンセスホールドです!
もー心臓やら、内臓的なものが飛び出そうです、口からこう、ぐぇっといきそうです。
とにかく、一大事です!!
「な、なー! 降ろしてくださいッ」
「何言ってるの? 歩けないほど疲労がたまってるんでしょ?」
「そ、そんな! 暫くしたら歩けますって! それがだめなら這いつくばって…!」
「暫くがいつになるかが問題だよ。這いつくばるのも問題外。
それに…とうに下校時刻は過ぎてるんだから、大人しくしてなよね」
でも、私重いんですよ!?
ああ、重いね。
そうあっさり返されてもショックですけど…、それよか今は恥ずかしいんだ!
「も、まじで降ろして」
「…落とすよ?」
…スイマセン、大人しくするのでこの高さから落とすのは勘弁してください。
「あの雲雀さん」
「なに?」
姫抱きされて、降ろされた場所にまず驚いた。
「送ってもらう身としてなんなんですが、中学生のバイク乗車って違反ですよね」
「そうだね」
「…警察が後ろから追ってくるんじゃないですか!?」
「そんなことをしてきた奴は全員咬み殺したから」
あ、そうですか。
もう雲雀さんに法律と言う名の国家権力も通じなくなってます?
さすが、何者にも囚われない自由な人だなぁ。
「腰が抜けるほどびっくりしてる?」
口を弧にして笑う雲雀さん。
「既に腰が抜けてる私に言います? というか、もう感覚なんて麻痺してるって言いませんでした?
何より…雲雀さんが送ってくれるってことがもー幸せで幸せで!」
「…そう」
あ、反応が薄いー!
そう言おうとして口を開こうとしたら、手渡されたヘルメット。
…あ、そこは律儀に法律守るんですね!
「いいんですか? 雲雀さんのヘルメットないですよ」
「あるから手渡したんだよ」
「……あの自惚れてもいいのなら」
最初から送ってくれる気があったんですか? 1人で登校してる雲雀さんが2つ持ってるなんて…。
私がそう言えば
「最初から君を足腰立たないぐらいに痛めつけようと思ってたからだよ。
そのあと、応接室で倒れたままって言うのも嫌だったからね。用意しておいたんだよ」
「少し優しさを期待した私は、かなりがっかりでございます!」
いつも通りの風紀委員長様様のお言葉が聞こえたのでした。
でも待って。今日みたいになっても…送って帰るのが雲雀さんじゃなくてもいいんでは?
草壁さんや、ほかの委員…救急車と言う手もある(そこまでいくか)
…なのに、雲雀さんは…今まさに送ってくれようとしてる。
「? 行くよ」
「雲雀さーん、思い切り掴まってもいいですか!?」
「…限度を越えたら容赦なく振り落とすから」
そう言われつつも、嬉しさは抑えられない。
私は思い切り抱きつくように掴まった。
耳に入り込む風の音や、すれ違う車の音がとてもうるさいけれど
それに負けないぐらい私の心臓もうるさかった。
雲雀さんに聞こえてたらどうしよう。でもこれだけうるさいから大丈夫かな?
うん、大丈夫! 集中してるみたいだしね!
そーいえば、私住所言ったっけ? …ここ思い切り私の家の帰り道ダヨ。
あ、そっか。携帯番号知ってたんだから、住所ぐらい知られてるか!
少しぐらい危機感持った方がいいのかな、プライバシーだし。
雲雀さんに抱きつきながら、そんな無意味なことを考えてる私だった。