Target8 勝利




息を荒げながら、私は屋上に向かっていた。


あれから私は草壁さんと戦っていた。他の風紀委員はその様子をずっと見ていた。
さすが、風紀委員ナンバー2…強い!
あの大きな体から繰り出される技は…喰らうと中々痛いので、頑張って避けた。
でも、体力では劣る私は、徐々に技が当たり始めて…一発だけ体に受けてしまった。


『す、すまない!』


謝ってくる草壁さんに、私はニヤリと笑って見せた。
そう…このスキを待ってたんだから!

私は草壁さんのひるんだ足を払い、ふらついたところをスピードで攻めたおした。
苦労はしたけれど、私の足技を避けるしかない草壁さんは壁際で押されていく。
最後、私の一発が草壁さんの顔を掠めて…勝負はついたのだ。

一瞬で室内がどよめいた。


『ハァハァハァ…じゃ、じゃあ!』


私は、嬉しさ半分、申し訳なさ半分であの部屋を後にして、今に至ってるわけで…。



「勝った…私、勝ったんだ!」


階段を登りつめ、バンッと屋上のドアを開けた。



ひ、雲雀さん! 勝ちました、私、勝ちましたよ!



雲雀さんは寝転がって、ぼーっと空を眺めていた。き、聞こえているのかな?
ま、まぁ…私も息があがってるから、それを抑えなくちゃ。
とりあえず深呼吸して、私も空を見上げてみた。

とても澄んだ青空に、真っ白な雲が風に乗ってゆっくり流れている。


「…、君はやっぱり強いんだ」


ふと聞こえたその声に、やっと安心する。


「でも、苦戦したんです。相手が隙を見せなかったら負けてましたよ」

「…相手は草壁かい?」

「はい、副委員長さんということは、残られた人の中では一番強いってことですから」


その人に勝っちゃえばもうなんとも!

私はニッコリ笑ってみる。対する雲雀さんは起き上がって私を見た。


「でも…武器は昨日僕が壊したよ。どう勝ったの?」

「(あ、それを分かっててアレを仕組んだの!?)まー体術ー…足技って言うんですか?」


レイピアは殺傷能力は低いけど急所に当たれば死んでしまうものだから、私がそれで止めを刺すことはない。
あくまで気絶させるだけだから、足を使った肉弾戦が私の戦い方になる。
相手が武器を持ってたらそりゃ、レイピアで応戦するしかないだろうけどさ。


「…甘いよ、君」

「なんとでも! これが私の戦い方で…この戦い方で、雲雀さんに勝つんです」

「多分、無理だと思うけど…やってみる?」

「多分ってことは…0%じゃないってことですもん!」


私は身構えた。でも…雲雀さんは、笑ってる。


「今日はいいよ、そこまでボロボロの君と戦いたくない」

「…?」

「とりあえず、こっち来たら? そんなところでボーっとしてないで」


その言葉にさらに嬉しくなって、何度も頷いてから雲雀さんの隣に座った。
ちょっとは、認めてもらえたのかな? こうやって傍にいてもいいってことは…。


「…雲雀さん」

「なに?」

「雲雀さんは、どうして強いんですか?」

「(なんて唐突な…)聞いてどうするの?」

「え、普通に参考に。あー! まさか見えないところで特訓でもしてるんですか!?
 その学ランの下は実は、トレーニング器具があるとか! 巨人●星も夢じゃないですねぇ


じゃあ私、お姉さん役で電柱の陰からこっそり覗いていようかなっ!
雲雀さんと、お父さんとが特訓――あ、だめだ。あり得ないや


すいません…

「急に謝ったってことは、言った事に無理があるって分かったね?

はひ


一匹狼の雲雀さんが誰かと特訓だなんて…ありえない!
やっぱ、自分の力強くなったのかな? 強い人をドンドン倒して…信長みたいに
下克上? 天下布武? むー…じゃ、私、雲雀さんに勝とうとしてるから…明智?


「でも明智光秀は、もともと配下にいた人だからなぁ」

「…? さっきから百面相してるよ、面白いぐらいに

「表情豊かな証拠なんですよ!」


うふふのふー、きっとお母さん譲りなんだよね!
というか、面白いってのは余計ですよ!


「なーんか、雲雀さんは雲みたいな人ですよ!」

「また急なこと…」

「掴めないというか、自由というか…」

「へぇ」

「ま、私小さい頃から雲に憧れてたから余計そう感じるんです!」


雲雀さんは私の憧れなんですよ!
何者にも囚われない確固とした強さを持ってて、悠々自適。
私に持っていないものをちゃんと持ってる。

だから、きっと…初めて会ったあの時に惹かれたんだ。一戦交えて分かったんだ。


「…君は他の草食動物とは違うね」

「へ?」

「草食動物は群れたところで何の力ももてないくせに群れたがる。だけどは違う。
 群れなくても周りの草食動物より強い。こうやって僕の隣にいるし、草壁も倒した」

「でも…友達とかほしいと思いますし、仲間は多い方が好きですよ?」


ぶっちゃけた話、雲雀さんの嫌い分野の人間ですよ…私。


「それでも君は…“強い”」

「んー、雲雀さんのほうが強いですよ?」

「当たり前だよ、僕より強いやつは並盛にはいないから」

「そうですよね!」


でも、やっぱり内心は凄く嬉しい!
雲雀さんに強いって言われたこと、少しずつ認められているという事。
あーもう!


ひっばりさーん!


私は抱きつこうと雲雀さんに近寄った。


、何急に!」


が、雲雀さんは素晴らしい反射神経で避けた。


「え、勿論抱きつこうかと

「もちろんって…何言ってるの。君には危機感とかそういうのないわけ?」

「あります。でも、雲雀さんは別でーす!


それはそれ、これはこれ、って奴ですよ!
もー今は、喜びを体一杯で示したいんだ!


「ほんっと大好きですよ、雲雀さん!」

「はいはい」





残された風紀委員たち。


「大丈夫っスか、副委員長!」

「草壁さん!」

「大丈夫だ…。新入生でここまでやるものが現れたとなれば…委員長もさらに荒れるぞ

「「「勘弁…して」」」

「だが、そのストッパーになるかもしれないな。は」


その日から私は、風紀委員内で『姐さん』と呼ばれている…らしい。


それこそ勘弁してくださいよ!