「ン…?」



鳥のさえずりが聞こえて、私は目を覚ます。雀にしてはすごくいい鳴き声…心地いいや。
そう思いつつ、体を起こそうとしたけれど…。


「…?」


手首と足首に違和感が。


「…縛られてる?」


わぁ、初SM
そっか、私…気絶したんだ。あれから先のことは知らない。
――思い出すとムカつき始めてきた。私を気絶させた張本人、斎藤一の顔が浮かぶ。


…っていうか、本当に幕末なのか…ここ。
まぁ、そうだよね。そうじゃきゃ、あんなこと、許されるわけない。


「…?」


冷静にそんなことを考えてると


ぐるぐるに縛られた子が隣に、いた。
よく見れば昨日も居たよね、この子。たしか、唯一新選組の羽織を着てなかったなぁ。


「起きてる?」


可哀相に、私とは違って本当にぐるぐるじゃない!


「…ご心配、ありがとうございます」


少し高い声色で私にお礼を述べる。ふっと私に微笑みを見せた。


「君も捕まったの?」

「…あ、はい。捕まったというよりは、…なんていうか」

「まー、訳アリなのね。あんなところにいたんだし」


思い出したくないが、確かに生きてるもの以外もそこにあったと思う。
私はあえて視界に入れないように心がけたけれど。


「…どうなるんだろ、私…たち」

「貴女は、本当に異人なんですか?」

「へ? …まさかぁ、私は生粋のジャパ…、この国の人だよ。そうじゃなきゃ、言葉なんか通じないでしょ?」

「でも不思議な格好をしてるから」


だろうな。私からしたら普通でも、ここの人たちにとっては普通じゃない。


「…ああ、そうだ。そんな堅苦しい喋り方やめてよー、歳近いっぽいし」

「え?」

「仲良く、っていっても囚われの身だからどうなるかわかんないけど…ね」

「…うん、ありがとう」


ああ、この子…可愛いッ!!


「ねぇねぇ、名前は?」


あまりの可愛さに名前を尋ねたくなった。


「雪村千鶴です。貴女は…、さん?」

でいいよ、私は千鶴ちゃんって、呼ぼっかな」


私がなんとなくそういえば…千鶴ちゃんは驚いた顔をした。
もう、可愛いな……とか思いつつ、どうかしたのかと尋ねれば、目を瞬かせた。


「何で、女だって、分かったの?」

「へ? だって、君……可愛いし」

「…格好は男だよ?」

「そうなの?」


私この時代の人じゃないから分からないんだけど…まさか、男装してたの?


「もしかして、気付いちゃまずかった?」

「ううん、ちょっと驚いただけだから」


またふわりと微笑む千鶴ちゃん。ああ、同じ女ながらに、惚れそうだ
でも、男装してるってことは訳ありなんだろうから、迂闊に洩らしちゃいけないよね……。

そんなことを考えてると、ゆっくりと襖が開けられた。


「ああ、目が覚めたかい」


優しそうな微笑みを携えたおじさんが、そこに居た。
この人も…新選組なのか?


「おじ…、あなたは?」


そう尋ねると、彼は井上源三郎と名乗った。…新選組は土方と、沖田と、斎藤…あと近藤ぐらいしか覚えてない。
まぁ、ここにいるんだから新選組なんだよね…このおじさんも。

観察するように私が見ていると、ふっと私の足首に目線を落とした。


「すまんなあ、こんな扱いで。今、縄を緩めるから少し待ってくれ」


…おじさん!! あなた今、救世主になったよ!

苦笑を浮かべながら、井上さんは私と千鶴ちゃんの縄を解いてくれた。
でも…手を縛る縄までは、解いてくれない。そりゃそうだよねぇ。


「えと、あの、ありがとうございます」

「助かりました、井上さん」


私たちは口々にお礼を述べると、また少しだけ笑った。


「ちょっと来てくれるかい、ふたりとも」


そういわれて、首を傾げる。来るって…どこに?


「どこへですか?」


その質問に井上さんは親切に答えてくれた。


「今朝から幹部連中で、あんたたちについて話し合ってるんだが……」


じっと、千鶴ちゃんを見つめた。


「特にあんた。あんたが何を見たのか、確かめておきたいってことになってね」


何を、見たって、あれか…。


「あの、死体のこと?」


私が見て見ぬフリをしていたアレのことか。
まさか、殺人現場を見たから口封じ!? 893じゃないんだから…!


「あんたも見てたのかい…。やっぱりねぇ、沖田君の言ったとおりか」


…沖田、と言う名前にピンときた。
なるほど…あのときの3人のうちの1人が沖田か。あの色素の薄い髪の彼。


「……わかりました」


千鶴ちゃんはよろけながらも立ち上がる。それに私も習った。
硬い表情をしている千鶴ちゃんに、なんと声を掛けたら言いか分からない。

この人たちは、人を殺せるんだから…そうだよね。私も他人事じゃない。
そう思案していると、井上さんがぽんっと私と千鶴ちゃんの肩を優しく叩いた。


「心配しなくても大丈夫さ。なりは怖いが、気のいい奴らだよ」


…そりゃ、井上さんの仲間だもんね。そう思えるさ。


「でも、人を殺せる…んだよね」


私の呟きは、きっと…千鶴ちゃんにだけ聞こえていた。