あなたは1人で、私も1人だった。

だけど私たちは…2人で1つだった。

でも私はいない、あなたの場所にいない。

欠けてしまった私たち。

離されてしまった私たち。

あなたの中は寂しさと憎しみで溢れた。

孤独を感じ、復讐心で汚れていた。

だけど、1人じゃない。あの人はそういったの。

私はいる。どこかにいる、その言葉をあなたは信じた。



そう信じて私の名を呼んだ。






アクマさんの事情






はぁ〜い!みんな元気かなー!?お姉ちゃんはとっても元気だよ☆
そんなわけで前回のおさらい、いってみよー!


逃げたアクマを追ってたどり着いた村、ダンケルン。
そこはすごく怪しげで、いかにも「魔女がいますよー」といってる感じ!
誰もいなさそうなその村で、神田がスケベ男ゴズに六幻ふるって、その先の雑貨屋に侵入した。
そこにはちょっと逝っちゃってる店主とその娘で西洋人形のようなソフィアがいた。
雨が降り出した中、彼らは私たちに部屋を貸してくれ、食事も用意してくれた。
もう、黒姫も限界だったので(ゴズに噛み付いたり、カウンター食いだしたり…)助かった!ありがとう!

美人ソフィアに呼ばれ、私たちは食にありつく。
ゴズのはしたない食べ方に圧倒されながらも、彼らからいろいろな話を聞く。
魔女とか、イノセンスの怪奇現象らしきことは一切無かった、とのこと。
ソフィアはミッテルバルトの仕事から帰ってきたばっかり…あの森を1人で!?
と思った神田は、私に詳しいことを聞くようアイコンタクトで仕向けてきました。
もちろん、ミジンコ並の脳みそしか持ち合わせていない私に理解なんて出来る訳無いじゃない☆
ついつい、神田にも春が来た!と、脳内で妄想が炸裂。
案の定…六幻で刻まれそうになっちゃいました!ヤメレ!
きっと神田は、ソフィアみたいな大人しく儚げなコじゃなくて、リナリーみたいなデンヂャラスガールが好みなんだNe!

それから魔女の話をしだすと、店主…お産です。
ソフィアも一緒にのってくれた…というより、本気だったなあれは!
どこまでも清い女の子ですネ!
店主が先に休むといって、ソフィアオンリーに。
そこでゴズ、何の緊張感も感じられない、腹の虫がきこえた。卑しいぞ、おまい
ソフィアはクスクス笑いながら彼にゼリービーンズを与える。ゴズは感涙末代までこの事を語るそうな

それから神田たちは部屋に戻り、私はソフィアの手伝いをしてから部屋に。
そこで問題発生。部屋は一つしかない!
奴等はわたしが女だという事実感してない…襲ったろかコンニャロウ!
一緒に寝るなんて出来るか!かといってソフィアの部屋は駄目…。



どうする!?16歳、ただいまピーンチッ!




部屋を出た私は、いまこっそり下に下りて、イスに座った。
頭の上では黒姫がぐっすりねてる…。いいわねーのうのうと寝おって!

さぁもうここで寝るっきゃない。やるっきゃないのよ


「そういえば…雨音が小さくなった気がする…」


壊れた壁(ゴズと神田がやったやつね☆)からは、弱弱しく降る雨が見える。
よかった、これなら明日は晴れるかな…つか今何時だ?


「時間の感覚が分からないよ…はぁ、もういいや」


寝ちゃえ。そう思って目を瞑った。










「ン…?」



私が目を覚ました頃には、雨音がすっかりやんでいた。
だけど、月明かりが凄く眩しい…。そんなに寝てなかったのかなぁ…。
私は黒姫を起こさないように欠伸をする。


ぼーっとしていると、何かが軋む音が聞こえた。


「?」


ギシギシ音を立てて…ホラーだよ、コレぇ!
ほら、あれか?あの井戸から這い上がってきてテレビからドドン!貞子か!?
あ、違う?座敷わらし?テケ●ケ?ま・まさか大穴のポ○モンか!?
もはや幽霊じゃねぇぞ自分、とボケツッコミかましてる間にも、音は段々近づいてくる。

思わず私は後退り、椅子に足をぶつけてしまい椅子が音を立てて倒れた。


「ッ!」


私は恐怖で足がすくむ、軋む音が無くなって…



誰だ?



イヤァアアアァ!!!



声が聞こえたよ!聞こえたよママー!!!どうすんの!幽霊?まさか魔女!?
誰だ?って聞かれちゃったよ!んなもんこっちが聞きたいわー!!


怖くて私はしゃがんでしまった。さらにいえば、何かが近づく音がする。
絶体絶命、怖くて声も出ない!涙が出てきた…!
涙ちょちょぎれるハイオクー!!!!


私はパニックの末、イノセンスに手を掛けようとした。



「…、か?」



だけど、その手はぴたりと止まる。この声…



「かん、だ?」



神田、だ。




「ははは、驚かせるんじゃないわよ!」

「勝手に驚いてただけだろ、…なんでここにいる?」

「そりゃ、えーと…」



私がどうしようか迷っていると、後ろから盛大なため息が聞こえた。ニャロッ…!



「大方、ソフィアにも部屋を借りれなかったくせに嘘をつき
 どうしようかと悩みに悩んだ末、ここで眠っていたわけだな」

ハイすいませんその通りでございます



もう、自分がアホみたいだ…つか、アホなんだな…あはは。
私は服の袖で涙を拭って、神田のほうに向き直る。



「…1人になんじゃねぇよ」

「え?」

「だから、ッお前が1人だとアクマが襲ってきた時に困るだろ!
 第一、涙声なんだよ。その、女が無理するもんじゃねぇ」



神田の言葉が、ひどく優しかった。おいおい、折角止まった涙が出てきちまうじゃねぇの!
感動させんじゃないわよ、さもなくば犯すわよ!今、ここで!!
今日はもう寝かせない…って先までねてたけどさ!



「…大丈夫!黒姫がいたからーってまだ寝てんのか、ワレェ!!!



こんなに喋っているのに、黒姫はおきるコトなく頭上で寝ております。
なんつー平和な奴だ…;



「ふん、お気楽な奴だな」

「そりゃどうもっ!」


神田はいつも、つっけんどんな態度とってるけど…優しいんだよ、やっぱり。
あーいいね、神田。萌えるよ!萌えー!!


「で、神田なんで起きてきたの?トイレ?」

違ぇ。ゴズがいなくなってる。お前何か気付かなかったか?」

「え?ううん、さっきまでぐっすり寝てたし…。
 あぁでも、すごい物音とかは聞こえなかったよ?聞こえてたらいくら私でも起きるもん」


ゴズ、まさかソフィアに夜這いかけちゃったとか…!?
ありえる、あいつならやりかねんぞ!脳内すでに春到来だし…。
でもいくらソフィアでも、アレに襲われれば叫ぶなり、蹴飛ばすなりしてるはず…。あぁ、ゴズ…!

早まっちゃった?狼化



夜這いいや!お腹がすいて凶暴化して出て言っちゃったとか」

「(違う単語が聞こえたぞ)…そうだとしたら、台所に居るだろう?でもそんな気配は無い」

「外に出て行ったとか?だとしたら…アクマ!?」



神田は外に繋がる扉を開けてみる。鍵がかかっていなかったのか容易にそれは開いた。



「え、ちょっと開けっ放しだったの?うっわー無用心…!
 私そんなところで寝てたんだ、戸締りは確認しておこうよ!」

「いくらなんでも、戸締りぐらいするだろう。ここは店だ。…誰かが外に出たとしか考えられねぇ」

「じゃ、じゃあ…ゴズが外に行っちゃった?」


神田は無言で外に出た。私も一応ついていく。



「お前はここに残っていろ」

「何で?」

「ソフィアと店主がここにいるのなら、もしもの時の為に…だ」

「でも、1人だよ…まぁ、黒姫が居るから!


大きく頷き、分かったというと神田はその手を私の頭に乗せた。


「すぐ戻る」


短くそれだけいい、満月の夜の下を走っていった。
さっきの会話…なんだか夫婦みたい!キャーすごい!いい体験した!キャッホーい!


…?」


ふと、後ろから声が聞こえた。この声は…ソフィアだ。
私達の声で目が覚めちゃったのか…。


「ゴメン、起こしちゃった?実はゴズがいなくなって今神田が探しに出かけたところ」

「そう…。驚いたわ、目が覚めたら部屋のドアが開いていてみなさんいなかったから…。
 それにお父さんも、どこにいったのかしら」

「え…店主さんも居ないの?」


まさか、店主が黒幕…?
そういえば!魔女の話をした時一番動揺していたような…。
でも、優しかったよね。そりゃちょっとイカレちゃってたとこもあったけど
何より――ソフィアのただ1人の血縁者だもん。


「大丈夫!店主さんも、神田が見つけてくれる!ソフィアは私と一緒に待ってよう?」


ソフィアは黙って私の目を見ていた。
ソフィアの青い目は、変わらず澄んだ空色なのに…どこか迷いがあった。
きっとお父さんが心配なんだよね?


「心配、だよね。1人になると」

「…え?」

「もし私も一緒に行ってたら、ソフィアはこの家にただ1人だったよね。
 でも、本当に大丈夫だよ?神田って強いんだから!私とゴズを守ってくれるぐらいに!
 お父さんも無事よ、大切な人だし――」

違う!


ソフィアはキッと私を睨みつけた。


「…ソフィア…?」


戸惑いつつ私は名を呼ぶ。ちょっと驚いて心臓がドキドキしてるじゃないか…!



「あの人は、あの人は!――アンジェラを見殺しにしたのよ!
 村のためだといって、古臭い迷信を信じてアンジェラを…アンジェラを!!」

「ど、どうしたの!?」


ソフィアが息を荒くして話し出す。
急にどうしたというの?なんだか、ソフィアがソフィアじゃないみたい。

大体見殺したって…?アンジェラって誰…?


「アンジェラって…?」

「私の双子の妹よ。お父さんはおかしくなって、アンジェラに多くのコスプレをさせて
 散々写真を取りまくった挙句、それを売って資金集めをした。
 だけど、そんなのこんな貧乏な村じゃ無理に決まってる!いくら美人でも!
 それにアンジェラは病気がちだった…。ソフィアが出稼ぎに出て、そのお金が全部薬代に消えたの。
 だから、言われるがままにアンジェラを差し出した!『魔女』として!」


所々妹褒めてるぞ、ソフィア!偉い、あんたはえらい!
つーか、昔からアブナイ人だったんだね店主…コスプレを娘にさせるって…どうかと思うぞ!

それよりキャラ変わってる、どないした!清いソフィアは何処!?



「魔女…魔女が本当に居るというの?」

「そうよ!魔女は、この村の災厄を全て引き受けるもの、そういう迷信を誰もがずっと信じていたわ。
 事実に魔女が居る間は、どんなに貧しくなって平和だったわ!
 アンジェラの前の魔女が死んでからというもの…村では多くの災厄が起きたわ!」

「ちょ、ちょいまて!そんなの偶然じゃない!」


混乱する頭で精一杯理解している私は、そう反論した。


「えぇ、私はそう思ったわ!だけど、村人達は『魔女が居なくなったせいだ』と決め付けたわ。
 新たな魔女が必要だといってアンジェラに白羽の矢がたったの…」

「アンジェラさん、に?じゃあ、アンジェラさんはどこに?」



アンジェラさんは、ここにはいなかった。
そういえば、神田たちが居た部屋は…女の子らしい部屋だったような。あれがアンジェラさんの部屋?



「言ったでしょう…『魔女』に選ばれたって…」

「!」

「魔女に差し出された私は、病気だというのに不衛生な小屋に住まわされたわ。
 水を汲みに外に出れば子供たちは石をぶつけてくる。
 たまに人がやってきたと思えば『写真、可愛いね!これも着てみて!』
 コスプレしろよと服を何着も何着も持ってくる…んなもんいるかボケが!
 と反論してみれば、逆ギレされて…!まぁ…そのお陰で衣服には困らなかったわ…



いい性格してるね、キミ…!ちょっと黒いあの子を思い出した。。。コスプレで困らない人って本当に居るんだね。
あぁ、でもこの子のコスプレが見て見たい!腐女子としてのが叫んでるわ!
くぅー!なんとしても、写真をゲットだ!あとで店主をしばきあげてやる!

という、私の脳内は放って置かれ、ソフィアは話を続ける。



「でも、あんな不衛生な場所に住んでたら…病気は悪化するに決まってるわ!
 小屋に――魔女の小屋に住み始めてたった10日で…私は死んだわ」


さっきから、話を聞いていると…アンジェラ、じゃなくて…私になってる。
でも、ソフィアはここにいるでしょう?おかしい…。

あぁ、頭が混乱してくる!どういうことなの!

でもとにかく!親が病弱な娘(コスプレ経験あり)を生贄に差し出し、その娘はすぐに亡くなった。
そういうことだよ、ね?だよね!?


「ひ・酷い話…」

「共感してくれる?は…優しいわね。ソフィアとそっくりだわ」

「…え?」


今、『ソフィアと』って…!混乱してた私の頭が一気に落ち着きを取り戻す。


「ソフィアは何も知らなかった。私が魔女にたてられたことも、何も…」


私の目の前に居る、“ソフィア”は…


「久しぶりに帰ってきて、全てを知ったわ。私が死んで5日も経っていたの。
 私はお墓も作ってもらえず、魔女の小屋の裏に埋められた…」


この澄んだ瞳を持った彼女は…アンジェラなんだ。
ということは…アンジェラが蘇ってる?じゃぁ、ソフィアはどこにいるの?
なんなの?私は分からない…!ソフィアがアンジェラなら、ソフィアは!?


「…そんななか、ソフィアは私を『呼んだわ』…あの人に出会って!」


ソフィアがアンジェラを呼んだ?…あの人…!
ここでやっとクロスの言葉を思い出した。


――人々の悲しみが、製造者を呼ぶ。


――名前は千年伯爵だ、そいつがアクマを作っている。



「千年、伯爵…!」

「そうよ!そして私の魂は呼び戻され、ソフィアの中に入り…『アクマ』になった!」

「!!」


じゃあ今、目の前に居るのは…!


「アクマ、だったの?そんな、でも!今まで見てきたアクマは見た目で分かった…。
 ソフィアは、ううんあなたは、全然分からない!」

は、何も知らないのね…アクマの事。ふふっ私はねレベル2なの」

「レベル…?」


おいおい、アクマにレベルとかあるのか?
経験値とかがあって、ある程度溜まったらレベルアーップ!なんて…
ちょっとどこかのRPGみたいなノリあっていいわけ?あるんだ!


その通りよ

「ちょいまて、また声に出てた?」

「モロ出てたわ」


うっわー恥ずかしッ!
顔から血が出るぐらい恥ずかしいわ!…(某バスケット漫画の少女より)

ごめん火だね、フツーに火です


「アクマは…2つの魂が入ってるの?1人の人間の中に」


ソフィアは私を襲うようなそぶりを見せない、少しだけ合間をとった。
本当は…まだ信じたくない、だけなんだけど。



そしてまた、信じられないようなことを…私は耳にした。















「…アクマはね、呼んだ人を殺し、その皮をかぶって行動するの」














私は一瞬、何を聞いたか分からなかった。





「…なに、言ってるの?」

「聞こえなかったの?呼ばれたアンジェラの魂が、呼んだソフィアを殺し…
 その中に入ってアクマとして行動するのよ」



千年伯爵がアクマを作る。それは…呼んだ魂が人を殺し、人の皮をかぶって生きるという事なの?




「…私たちアクマにとったら、エクソシストは敵なの。だから、は…敵。だけど…」



目の前の“アンジェラ”は悲しそうな顔をした。


「私は…あなたは殺せない。殺せないわ…あなたは今、困惑しているでしょう?」

「…」

「アクマの仕組みを知らなかった上に、私がアクマであることを信じたくない。
 以外のエクソシストなら、迷わず私に武器を突きつけるでしょうね。
 もちろん私も同じ、この場に居たのが以外なら…殺してた」

「殺すとか…言わないで…」

?あなたはアクマを何度か見ているはずでしょう?
 あなたの仕事は…私たちを殺す――壊すことなんでしょう?敵が何を言っているの?
 …そうよね、は優しい、優しすぎるのよ」



アンジェラは私を抱きしめた、私は拒絶すら出来ない。



「…大丈夫よ、あなただけは殺さない。殺したり、しないから」

「じゃあ、神田や…ゴズは…」


殺すの?

私はそう問いかけようとしたけど、そんな言葉を口にしたくなかった。
答えが最初から分かってるんだから。。。



「本当は、こんなの…駄目だって分かってるわ。
 それでも私は憎んで、恨んで、復讐するしかないの。アクマは…そのために生まれたのだから」

「後悔してる、でしょ?ソフィアは、あなたを…こんな姿にしてしまった」


いつの間にか目の前のアンジェラは…アクマの姿をしていた。
禍々しいその体口は避けて舌は爬虫類のよう。

だけど不思議と怖いなんて思わなかった。

だって、アンジェラは…泣いているから。



「…アクマになったら、戻ることはできないの」

「うん」

「壊されるまで、私は人を殺すわ」

「…うん」

「…エクソシストは、それを止めるのね?」



思った、私たちエクソシストが彼らを壊すのは…。
これ以上悲劇を生まないためだって。
呼ばれた魂を、呼んだ人の魂を安らかに眠らせるためだって。


「それが、あなた達のため、だと思う」


アンジェラは無言になった。


「……、エクソシストである貴方は敵に変わりは無い。
 せめて、眠って頂戴。私の…『能力』で!」



途端、私の視界は白くなる。浮遊感が襲った…!なんなの、何をする気なの!?

私が焦っていると…視界が歪み、色を取り戻す。









、何してるの?起きなさい」



また声が聞こえる。姿が見えないけど、声だ。
あぁでも誰が呼んでるの?まったく…目が重くて開かない。
このまま眠っちまおうぜ?ヒヒヒ、なぁんて思ったわけだ、あと1時間ばかし寝かしてください

私は自分を覆っている何かに深くもぐりこむ。だって気持ちいいんだもん、コレ!




「ちょっと!起きなさいってば!」




ガバリ、私を覆っていた何かが引っぺがされた。
ちょっち待てや!おいらの温もり返してくれよぅ!!


「って、ハ!?」


私はバッと身を起こす。まだ頭がボーっとしていて慣れてはいない。
朦朧とした意識をハッキリさせるためにブンブン頭を振ってみる。
周りを見渡せば、もう十何年見てきた部屋があって…。
私が座っているベッドには、漫画が散らかっていた。
ありとあらゆるキャラのポスター張り巡らされた壁、異常に漫画の多い本棚、たまりに溜まった週刊誌の山。
食べようと思っていたお菓子の位置まで…


そしてハッキリした頃には、鬼のような角を出してるマイマザー…


「マイマザー!?じゃぁ、ここはマイルーム!?」

「何時まで寝ぼけてるの?ったく、アンタはほんとに誰に似たの?お母さん?母さんだって言うの?
 そんなの無・理よ!私からこぉーんな子が生まれるなんて、想像しただけでサブイボが…!

「ヲイ。実の娘の前で何を言っちょるか」


なんてテンポいいツッコミをかましてみる。
あぁ、私なんつー夢を見ていたんだ。


…でも、どんな夢を見ていたんだろう。思い出せない、よ?



「早くしなさい!遅刻するわよ?」

「げ、もうこんな時間じゃん!」


私はさっさと着替えを始める。クローゼットを開け制服を取り出す。
制服はいつもと変わらない。学生鞄はからっぽ、なんてたって置き勉してるからね!
(ようは勉強道具学校においてきてるって事サ☆)


さっさと下に降りて、ご飯を食べ終える。


「今日はお友達とバーゲンに行って来るわv」


とウキウキしながらお母さんが話す。
ぶっちゃけていい年こいて、セリフにハートをつけているマイマザーが激しくキモイです。


「ハイハイ、じゃぁ行ってきまーす」


私はそのまま玄関に向かった。
鞄はいつもどおり空っぽで、凄く軽かった。
家を出て、ドアを閉める。ふと目には言った鍵穴に、私は何かを思い出す。


「あ、鍵忘れた」


そういえば、お弁当も忘れていた。
帰りに何かが起こる気がする、お金は余分に持っていかなくちゃ。

なんで、こんなことを自然に思い出したのか自分でも分からない。
あぁもしかして私にもついに超能力が芽生えたか!?ふふふ、予知能力ってすばらしい!

今度こそ、家を出たら…空は快晴。



「雨が降ったりするかも…」


って、何口走ってるんだ私。晴れてるじゃん!これで雨が降るとか…どんだけー!(ByIK●O)
でも何故か不安になり、私は外にかけておいた傘を一本持っていった。

歩いていても、傘を持っている人物は私ぐらいでなんだか恥ずかしい…!
日傘だと思えば恥ずかしくないさー!!ウン、そうよ!


学校に着き、教室に入る。友達が雑誌を広げていた。


「おはよー!」

「おはよ!」

「ねぇねぇ聞いてよー!私の大好きな漫画がアニメ化したの!も見なさいよー!
 つーか漫画買っとけ!?買っといて損はないわ!かっかっか!」


そういって変な笑いでその雑誌を私に貸す。ありがとう、これで授業は暇じゃない!


「1時間目数学かーやる気でないー!」

「だよねぇーは数学一番嫌いだっけ?」

「つーか、あの先生が嫌いなの!…きょう抜き打ちある…」

「は?アンタ何言ってるの?抜き打ちある訳無いじゃーん!」


友は私の背をバシバシ叩き、チャイムと同時に席に戻って言った。
そう、抜き打ちなんてありえない。だれだってそう思うでしょう?

しかぁああああし!


私は問題集を広げた。
確かこの問題と…これも出る、覚えてる。というか、予想がついてる!


なんでじゃ?なんで今日の私冴えてるの?

やっぱ、私は未来からきたドラえもんだったんだNE!!!


私の予想通り、抜き打ちテストは行われて…私は満点と言う結果だった!



…あんた今日、冴えてるわね」

「なっはっは!どうってことないべ!?」


昼休みは、教室いつもの指定席でのんびりするのをやめた。
するとそこに腰掛けていた人がボールに当たっていた。
私は危ないよ、と警告しておいたんだけどね。

次は図書館に行き、席に座る。
だけど何か不安だったので一度座った席から、少しだけ移動する。
やっぱり、さっきまで座っていた場所に本の山が落ちていた。


そして帰り、


「傘持ってるの、置き忘れた人とか折りたたみ常時者除けばアンタだけじゃない?」

「なんとなく、振りそうな予感がしたの!」

「ふーん、ま!今日はいい1日だったって訳だ!私はバスだから、もう行くね!」


そういって友達と別れて…わたしは優越感に浸りながら帰路につく。
横を雨に濡れて走ってく人が通る。ぬははは!傘は必要ですね、傘は!

何で今日はこんなにも絶好調なんだろう?校長、絶好調!…はい、寒い。


ふと、私はある道に差し掛かるところで、何かを思い出した。


そうだ、ここで私は水をかけられる。


後ろからやってきた暴走車は、スピードを緩めるコトなく大きな水溜りに突っ込む。
私はその水を避けきることができた。


「…やべぇ、おかしいぞ…私!」


自動販売機が横に見える。そういえば寒い…ココアを飲もうと、私は財布をパカリと開けた。
ココアは100円だから…!


「…あ!」


ここでも、発見。
私は今日お金を追加していなかったら、ここでココアは買えなかった。
追加した分を抜けば、10円玉9枚、5円玉2枚だったんだから。


「…なんだか、気味が悪い、かも」


ここまでなんでも絶好調だと、自分を疑いたくなってくるわ…!
結局ココアは買わず、家に着いた。鍵を開けて…鞄を置く。


「…なんだったんだろう、だっておかしいよ」


まるで、一度…経験しているかみたいに次に何が起こるか予測がついて。
一度、経験しているのかもしれない。今日と全く同じ日を。
でもそんなのありえる訳無いじゃないか!何考えてるの自分!
今日がもう一度今日であることなんてないのさ!常に日は変化してるんだからサ!

じゃぁどうして分かってるの?本当に超能力?…な訳がない。



まぁなんでもいいやと、ソファーに腰掛け、友達に借りた雑誌を広げた。


「特集はD.Gray−man…?アニメ化したってコレ……」


なんだろう。。。


「そうだ、私…コレ読んでて、このキャラの名前を呟こうとしたら雷が鳴り始めて…」


ここまで私は予測していた。指を刺したキャラクターは…神田ユウ。


「…違う、私はこの日をやっぱり知ってる」


今日という日を知っていた。違う、これは私の知ってる『今日』じゃない!
作られた『今日』なんだ!



「…あ、リナリーだ可愛いよねぇ…腹黒いけどさ
 ラビ、かっこいいけど行動が突発すぎるよね。そして―…」


雷が、遠くで鳴り響いた。


「神田…だ」


私は、この漫画を知っていただろうか。知らないはずだ。見たことが無いもの…
聞いたことはあっても…。じゃあなんで、知ってるの?性格まで…!


「神田はツンデレだよね。萌えを感じるぐらいに!だけどあの俺様っぷりにはあきれ返ったわー!
 でも…ピンチは助けてくれるんだよね、スーパーマンみたいに。
 ほら、ゴズに後ろから抱きしめられたときとか六幻突きつけて――…え?」


ゴズ、って誰だった?


「…」


ゴズは赤い髪で巨体で、妙にビクビクしてて…あの赤毛をクロスと間違えて黒姫が噛み付いて



「…あ」


クロスって、黒姫って、…なんでそんなの、雑誌には書かれてない。
何で分かる?何で知ってる?まるで自分がその場に居たように。



―――!!!



誰かが私の名前を呼ぶ。私はこの声を知っている。


―――おい、いい加減にしろ!アホ女!


アホなんていわないでよ、アンタが馬鹿なんでしょう?



「神田、だ」


私が今日を知っているのは『今日』を経験しているから。
そしてこの『今日』はつくられている。今全部思い出したよ…

私の始まりは厄日だったんだ。

クロスに呼ばれて、エクソシストになったんだ。皆に出逢ったんだ!


今は任務の真っ最中で…



目の前には、アンジェラが、ソフィアが…アクマがいたはずだ!!!




「神田ッ!!」


私は神田の名前を呼ぶ。


約束したよ。神田は「すぐ戻る」って言ってた!!



私は首にかけていたはずのイノセンスに触れる。
そこには無かったはずのそれが、今はっきりと現れる。制服も、黒の団服に変わる。



そして…



「これは、夢なんだ!」


そう力いっぱい叫んだ。




目の前には神田とゴズが居た。



「ッ!」

さん!無事だったんですねぇ!!よかったです!!」


ゴズ…泣いてくれるのはいいんだけど…鼻水はたらさないでくれたまへ
折角の一張羅が汚れちまうでしょうに!

つーか、雑貨屋じゃないし。どこやねん!


「ここ、どこ?」

「どこって、お前!勝手に雑貨や飛び出して何やってんだ!!」


見上げればここは外だった。村の入り口、だな…。あらま、いつの間に。



「私、夢見てた。…厄日だった日の…夢」


きっと、アンジェラがその夢を見せて私をせめて殺さないようにと…ここに連れ出したんだ。
私にとって懐かしい夢を見させて…。



「神田、ゴズ…ゴメン。私――」



神田が私の言いたい事を言う前に抱きしめてきた。


「は?」

「…馬鹿女!」

「ちょっ何!?」



私は何がなんだかサッパリで混乱した。



「心配、させやがって!」


なるほど、神田…。心配したんだ。そりゃそうだよね。ツンデレ王子、神田。
いつもツンツンしてるくせに、見知った女がこんなところで伏せて寝てれば、驚き心配するわなー…!
しかもどこにアクマが潜んでるか分からないのに、私ってばダ・イ・タ・ンv


「ゴメン、ね?」


私は神田の背に手を回し、ぽんぽんしてやる。やだー母親になった気分
といいつつも、やっぱり美人に抱かれているわけなので…心拍数は以上に上がっている。
嬉しいんだか恥ずかしいんだか、でも近くにいるゴズを見れば、あらま顔真っ赤


私の恥ずかしさが倍増した。



「このとーり!無事だから…離そうか、神田君?
 さっきからゴ…ゴズが顔を赤らめて目のやり場に困ってるから!」

「!」


バッと神田が私を離し、立ち上がる。
そして自分がやったことを今思い出したのか顔がほのかに紅潮していく。
おいおい、なんつー純情ボーイなんだへいへい!

そういう私も、いまだ胸がどくどくいってるわけなんだけどね



か・神田さんって…意外に大胆だったんですね

「う・うるせぇ!知るか!」

「俺、女の人を抱きしめる人…はじめて見ました!」

「マテ、ウソだそれ。だいたいお前が一番最初に私を抱きしめてたろーに!私の『初めて』奪ったのはキサマだ!!」



さんも大胆ですね、初めてだなんて…キャッ!


とかヲトメな発言ぬかすゴズに思わず私はリバースしかけた。
そこに神田が六幻をぶち込み、ゴズは地に伏せた。



「と、とにかくだ!何でここにお前がいるかしっかり説明しろ!」


私は全てを話した。
ソフィアがアクマであることも、それの経緯も。

その話をすると、またゴズが泣き出して鼻水たらしているので…キモイ!


「やっぱり、な」

「やっぱりってどういうこと?」

「ゴズだ。ゴズがつかまっていた場所が…恐らくその小屋だ。そこに店主がいたが、まぁグルではない。
 その店主が「店に寄らず、出て行け」といった。つまり、犯人が雑貨屋に居るというわけだ。」

「さらに、あの場所…すごっく埃臭かったですし…グズ。臭かったですし…グズ


グズグズ鼻を啜るなら話すんじゃない!鼻水が何度もお目見えしてるぞ!


「じゃあなんで神田はあの小屋にゴズが居るって分かったの?」

「それはコイツがソフィアから貰ったゼリービーンズを知らず知らず落としていたからだ」

「え、ゴズすごい!」

「だけどこいつもステーキの幻覚に襲われていて…たまたま落としていっただけだった」


ちょっと褒め損。しかもステーキって…アンタ!相当食い意地張ってるね!


「…にしても、人の気配が全く無い。ヘタすれば俺達以外の人間はいないかもしれないな…」


そう、アンジェラは憎んでた。この村の全てを…。
でもアンジェラは泣いてたんだ。本当は、救って欲しいんじゃないの?



「…神田、行こう?」

「あぁ、ソフィアがアクマとわかった以上…」

「斬るんですか?彼女を…」


ゴズは涙目で神田に訴えかける。


「当たり前だ。アレはアクマ、俺はエクソシストだ」

「でも、彼女は被害者でもあるんですよ!」

「馬鹿かお前は」

神田さんに言われたくありません!


やだ、ゴズ。私の知識が埋め込まれてるネ☆
神田は馬鹿呼ばわりされて、眉を引くつかせている。


「俺はこれ以上、人が死ぬのを見たくはないんです!」

「…アレは人じゃねぇ」


神田がゴズを睨む。


「アクマだ」


その言葉に、ゴズがキレた。そうか、ゴズは…少なからずソフィアに惹かれていたから。


ゴズもまた、優しい人間だから。




あんたには、人の情ってものがないんですか!!




そんな風に、彼女たちに同情しているんだ。



「じゃあ、黙って殺されるのか?」



そう神田が言い返すと、ゴズは黙っていた。
私は、アンジェラの涙を思い返していた。



「ゴズ、あのね…。ソフィアは望んで、アンジェラを呼んだの。たしかにアンジェラの死は、村人達が迷信を信じていたせいだったかもしれない。
 それでもアンジェラは死ぬまでは、きっと幸せだったんだと思う…。だからこそ、彼女はソフィアに強く生きて欲しいと思ってたはず。
 呼んで欲しくなかった、アクマにして欲しくなかったんだって。だから…アンジェラはアクマになっても、私の目の前で泣いてたの」

「…泣いてた、のですか?」



じっと、私を見るゴズ。その目にまだ、怒りと悲しみが見える。



「うん、泣いてたよ。そりゃぁさ、村人を憎んでるよ、アンジェラたちは。
 だけど殺したいほど憎んでたかなぁ?違うよね。少しぐらい迷いはあった。
 その憎しみが人を殺す理由になってしまってるんだ、と私は思うのよ。
 だったら、もう止めてあげたい。ゴズ、エクソシストは――」


私はぎゅっとイノセンスを握り…発動させた。



「アクマになってしまった魂たちを安らかに眠らせるために在るんだって、思うんだ」



私がそういうと、ゴズはすっかり俯いてしまった。
それまで黙っていた神田が口を開く。


分かってくれたと思う。ゴズが本当に優しいのならば。


「行くぞ、アクマを…破壊する!」


神田は地を蹴り走り出した。
私はゴズの背を押し、その後ろをついていく。

私にとっても、ゴズに持ってもツライ戦いが始めるんだ。

それでも私は…救いたいんだ。



雑貨屋につくと、あの姿のままのアンジェラが立っていた。