結局、この戦いで誰が救われたのかな。
傷付いて、失って、涙して…。
でも、グゾルは最期笑ってたなぁ。
私の勝手な解釈でいいのなら、きっと…
「天寿を全うできた」のかもしれない。
出会いは別れの始まり、逆もまた然り
「ンッ!」
「お嬢さん…大丈夫、痛くないですよ」
「イッ…アァ!」
「はい、ゆっくり動かしますよ…」
「ツァッ…痛ッ」
「ここ………凝ってますね〜」
「ドクター!! マジで痛い〜!!」
卑猥な感じで始めちゃってごめんなさい! は至って健全なんでそこんとこ4649☆
今、私たちはマテール近くの街に滞在している。
なんてったって神田やアレン、トマの傷は酷いものだったから、その治療の為に。
アレンは「神田と同じ病室だなんて反吐が出ます。さっさと治療してください。僕は外に行きます」とか言って外へいっちゃった。
まぁ、行き先は分かってる…あの2人のところだ。
トマも動けるまでに回復。後は…神田を待つだけなんだけど。
「大分苦労してたんですね、お嬢さん…」
「まさかこんなにも自分の腰が凝るとは思いませんでした…、痛いデス、もういいー!」
「あ、そうですか」
ドクターの荒治療じゃムリ! でも、マッサージってそういうもんなんだよね…。
ん? でも少し楽になったかも…!
「ちょっと楽になりました…」
「でしょう? 私はこれでも地方一の手と言われた程ですからね」
「地方一の規模がどれぐらいなのか…。あ、じゃあ私神田のところに行きます!」
「私も後で伺いますよー」
治療してくれたドクターに礼を言って、神田の病室に向かった。
実はあのアクマ対峙以来、私は神田に会っていない。なんつーか…顔を合わせづらい。
いや、任務の時は普通に話せてたんだから問題ないはずなのに…あーもう。
だって、あんなに怒っといて今更平然と出来る!? 平然としてたけどさ!
なんていろいろ悩んでたんだけど、結局開き直っちゃおうZE! ってことで、今神田の病室の前。
「………どーやって話しかければいいんだ…」
普通でいいんでしょ、普通で。でも、普通ってどうだったよ!?
って、普通だったんだから考えたって分かるわけないわ!
「よし、行くぞう」(けっして有名人じゃない)
私はドアに手を掛け、思い切り開ける! すると…
上半身サラシ一丁の神田が目に飛び込んできた。彼は勇ましく点滴を抜いてらっしゃる。
相変わらず、細いくせに筋肉は付いてる体…思わず私は凝視して固まってしまった。
それに気付いた神田が…盛大にため息をついた。
「おい、人の体見て固まってんじゃねぇよ」
その言葉に、私はハッとして神田の顔に目を移した。
うっわ、神田の顔より先に体に目が行くってどんだけ変態なのさ、私。
でも…やっぱ、神田の体って…十分萌え要素だと思うのよね、ウン!
「いや、相変わらずイイ体をしてらっしゃると思いまして」
「変態か、テメェは!」
「やー変態と腐女子は紙一重って言うじゃない!」(言わない)
「訳分かんねェよ! ったく、それより突っ立ってないで入って来い…」
寒いだろうが。
あ、そりゃそうですよね。ドア開けっ放しとか、超公開プレイですよね!
私はドアを閉め、ベッドの横のイスに座った。座ったんだけど…。
「……」
「……」
なんでまた気まずくなっちゃうかなー!! ちょ、神田が何か喋って…いや!
いつも私から会話を振るんじゃないのか? あー分からないぃい! こうなりゃヤケ!
「「あ…」」
こういう時に限って、言葉が被る! また気まずい…。
「な、何…神田」
「ッ、先に言えよ」
「やだな。こういう時だけ紳士的にならないでよ、レディファーストは気にしちゃだめよ!」
「いや、特に気にしてねぇ」
「それはそれでムカっときたぞ、オイ」
あ、今普通のやり取りできたかも…。
私はふぅ、と息をついて…口を開いた。
「ケガ…もういいの?」
「あ? ああ、治りが早いのは知ってんだろ…もう塞がった」
「そ、か」
「お前は?」
神田は目を合わせないで、私の様子を聞いてきた。
でも、私は目立った怪我をしてたわけじゃないのになんで――ああ。
「さっきの卑猥な声が漏れてたか…」
「は?」
「初っ端からドクターとプレイしました的な声を出しちゃったからさ、それが気になってるのね!」
「んな!? 何言ってんだよ馬鹿!」
多分、本人はそんなつもりで聞いたんじゃないだろうけど、バッと私に振り返った。
そして私の言葉の意味を理解してか顔を紅潮させた。
「やぁねぇ、神田ったら〜! この、ムッツリスケベ…キャッv」
「ふざけてんじゃねぇよ馬鹿ッ!!」
紅潮どころじゃなく、怒気で沸きあがりそうな神田。
これ以上興奮させるとマジでキレそうだから、弄るのはやめよ。
「大丈夫。ただ腰をマッサージしてもらってただけだから」
「そうかよ…って、俺が聞きたかったのはそこじゃねぇ!」
「え、違うの!?」
納得させんな、馬鹿!
こんな短時間で、神田から馬鹿って言葉を3回も聞いた気がするんですけど…!
「てゆーか、納得したのは自分じゃん! 神田のほうが馬鹿だ!」
「うっせぇよ! 俺はお前を心配して言って…!」
私を心配して…?
「…人形たち…、あーなったことに、だよ…」
あ、そういうこと。
神田は私の心持のほうを心配してくれてたんだ。
「…平気って言えば、嘘」
「…」
「でも、少なくても今…2人の願いは果たされようとしてるから悲しんじゃダメだと思う」
2人の望む最期…「ララを壊すのはグゾルであること」。
ララは、ううんララであった人形はもう壊れそうだけど、確かにグゾルさんのために歌ってる。
イノセンスはちゃんと、2人の希望となってそこにある。
「そうか…」
私の言葉に、神田はどこかやりきれない顔をしてそっぽを向いた。
「あの、神田」
「なんだ」
「ありがと、それと…」
ごめんね。
やっと言えた。本当は、真っ先に言わなくちゃいけなかったはずのコトバ。
「…何、謝ってんだよ」
「だって、あんだけ大見得きっといて、結局神田に助けられて、迷惑かけて」
気付けば、何でケンカしたんだろう。
神田が命に代わりがあるって言ったからだ。でも…代わりがあるって思ってるなら
なんでアレンや、私を庇って前に立ってくれたんだろうね。
本当はずっと分かってたはずだったじゃないか。
神田は、言葉が悪いだけ。神田は、ちゃんと現実を見てただけ。
現に、あのマテールでたくさんの探索部隊が命を絶ってしまった…あれが現状。無力な人たちの成り果て。
被害を最小限に抑える為に、精一杯神田は…。
「ごめ…」
「それ以上言うな。言ったら叩っ斬る」
え、強制的ですか!? なんだその有無を言わせない言い捨てようは!?
神田は目を瞑って、ハァと息を吐いて、すっと目を開けた。
そうしてゆっくり私に向き直って「悪かったのは…俺のほうだろ」と、言った。
「神田…?」
言ってる意味が分からなくって首を傾げる。神田はそれを気に留めないで話を続けた。
「が、アクマを破壊できないのは俺が一番分かっていた。
だから、その…思ってることとかを理解してやらないといけなかった」
…神田は神田なりに…私の言った言葉を考えてた。
そっか、そうじゃなきゃ…神田は私に励ましの言葉をかけたりなんかしなかったよね。
「…じゃあ、さ」
もう、いいんだね。ギスギスすることもしなくたっていいんだ。
お互いが悪かった、そういう事なんだよ。
「もうナシっ! 私、気まずいのイヤだ!」
「どれだけ楽観的なんだよお前は…」
「いやー、面倒なんだって〜。神田とどう接したら良いかとか考えるの、さ。やっぱ普通がいい」
「ハッ、今の今までが普通だとは思えねぇけどな」
相変わらずの口調。それが神田だ!
「何さ、その馬鹿にしたような口調。神田は人より馬鹿なんだから、そんな喋り方しちゃダメでしょうよ」
「少なくてもお前よりはマシだな」
「私は神田の知らない知識を一杯持ってるのだよ。ふはは、平伏せ下郎!」
「誰がだ! クソっ黙ってれば…! おい、お前そこに直れ…六幻ッ!」
「ちょッ、神田さん!? ここ病院だから、ある意味のR18な行いはヤメ……ギャー!!!」
よい子は病院で騒いだり、刀を抜いたりしてはいけませんよ☆
「逃げんなッ!!」
「ムリ、ムリーッ!」
「今日と言う今日は許さねぇ!」
「そう言って結局許すんだよ。ユウちゃんってば優しい〜」
「ファーストネームで呼ぶんじゃねぇ!」
そこそこ広い病室でのやりとり、あーそろそろ疲れてきた!
よし、ここは大人しくなってもらうしかない。
私はUターンして、神田を宥める為に向き直ろうとした。
「カン―――」
ごんッ
「あー!?」
と、思ったら点滴の脚に自分のつま先を引っ掛けて…やばい、倒れる!
「バッ!」
スローモーションだった。まぁ、ちょっと痛いけど…そんときは『ブラッ○ジャックによろしく』!
「…で、なんで私はベッドの上に放り投げられてるのかなー…」
「床にぶつからなかっただけありがたいと思え、アホ」
ここのベッド、硬い! だから痛いもんは痛いんだ!
転ぶ寸前で、神田が私の腕を引っ張り上げてベッドへダイブさせてくれたらしい。
でも、思うんだけど。
「だったら神田がその素敵な胸板で私を受け止めてくれればいいと思うんですけど!」
未だサラシの状態の神田を恨めしそうに見てやった。
そーだそーだ、いたいけな少女を放り投げるなんて紳士のやることじゃないぞ!
「女がそーいうこというんじゃねぇよ!」
「やーね、神田! 乙女と言うのはそういうベタな展開に萌えるって、誰かが言ってたよ」
「誰だよ…んなアホな知識をコイツに教えたのは…」
頭を抱えて言うな、神田。私が相当イタイ子に見えてくるじゃない!
「怪我はないんだろ、だったらさっさとそこ退け。サラシ外す」
「私が外してあげようか? サラシといわず、身包み全部」
「バッ……お前、本当にそういう事は軽々しく言うもんじゃねぇよ」
「恥ずかしがらなくてもいいのに…神田ったら意外に乙女だねぇ☆」
「人の話を聞けよ、オイ!」
あーやばい。私ってSかも…神田が怒るの見てるの楽しいわー。
いやいや、これはSってゆーか? 腐女子の血が萌え滾ってるっていうのかも!
ふっふっふ…最後に一発お見舞いしてやるか!
「神田ー」
さぁ、頬を紅潮させて私を萌えさせてくれぃ!!!
「…ヘイ、カモンv」
私はベッドに寝そべって隣をバンバン叩いた。
冗談でやってるんだけど…いわゆる“お誘い”って奴です。
んふふふ、神田は100%ブチ切れるね! 六幻抜かれる前にさっさと部屋を退散しよう!
…って、あれー?
「…神田ー?」
反応が、分かりません。俯いて、プルプル震えて…あ!
ブッチしてます!? もー怒髪天デスカ!
身も震えてしまうぐらいに怒ってます? きっと顔は真っ赤だな!
「お前って奴は…!」
ズンズン。神田は私の方へと進んでくる。顔は見せないまま…やぁね。
私の考えてることが分かられてるからきっと私に顔を見せたくないんだな☆ かっわいー!
からかってるのにー。
「やーね、ジョーダンだよ、ジョー…」
突如、私に影ができた。
気付けば……私はまるで、神田に押し倒されているような格好に、なってる。
「何度も言ってんだろ。女が軽々しくそういう事を言うもんじゃねぇよ」
何も…何も考えられなくなった。
ただ、神田の顔が私の目の前に見える。ハッキリ見える。
「男ってのは、優しいもんじゃねぇ」
そしてそれが徐々に近づいてきて…私の耳元まで降り立って…囁くように。
「冗談でもそういうこと言ってやがると、俺は本気になるからな、」
上げられた顔。神田の勝ち誇ったイヤミな笑顔で…。
それを見た瞬間、私は体中の血が沸騰したように熱くなった。
「へ、あ…あああああ!?」
「何言ってんだ、お前は」
楽しそうに…私の上で笑う神田。ちょっと、ちょっと…!
「…神田殿、さんもいらっしゃるんですか? 本部から連絡です」
部屋の外からトマの声…余計に恥ずかしくなって、私は
「わ、私、アレンの所に行く!!」
神田を押して、さっと立ち上がって部屋を逃げるように出た。
あんな笑顔は…初めてで。
からかったのは、私のほうだったのに…これじゃあ、私がからかわれたみたいだ!
「ツンデレめ…予想以上に、萌えさせて、くれるじゃないの…!」
予想外の反応を取られて、なんか…負かされた感じがする。ううん、それだけじゃない。
私の心臓は、うるさいぐらいにドクドクいってる。イヤだな、これじゃ…
まるで、神田にドキドキしてるみたいじゃないか…馬鹿!!
*
『いいねぇ青い空。エメラルドグリーンの海。ベルファヴォーレイタリアン♪』
「…だから、何だ」
『「何だ」? フフン♪ …羨ましいんだいちくしょーめ! アクマ退治の報告からもう三日! 何してんのさ!!』
電話の向こう側では、コムイが煩ェぐらい騒いでる。
つっても…俺のほうも冷静なフリをしていても、かなり動揺してるほうだ。
のせいだな、畜生。思い知ったかあの馬鹿女。
冗談でもあんなこといいやがって…それに、さっきのあの反応。
俺を動揺させるには十分だった…ったく。
「文句はアイツに言えよ! つかコムイ! 俺、アイツと合わねェ」
『神田くんは誰とも合わないじゃないの。あ、ちゃんだけは別か!』
「…チッ!」
『怒らない怒らない♪ で、アレン君は?』
「まだあの都市で人形と一緒に居る! もそっちに向かった!!」
怒鳴らせんなよ、クソコムイ!
そーいえば、じき…あの人形も止まるだろうな。
もうあの人形は…アイツらの知る“ララ”じゃねぇんだから。
「神田さーん、先ほどお嬢さんがすごい勢いで出て行かれましたが…何か…! ちょっとちょっと、何してんだい!」
ドクターが俺の部屋に入ってきた。ったく、うるせぇのが次から次へと。
俺はサラシをとりながらトマに目配せをした。
「帰る。金はそこに請求してくれ」
トマは名刺をドクター渡した。
奴は一瞬と惑った顔を見せたと思ったら、全力で俺を止めようとしてきた。
「ダメダメ! あなた全治5ヶ月の重症患者!!」
「治った」
「そんなワケないでしょ!!」
うるせぇな…黙らせるか。
外したサラシを突き出して
「世話になった」
治った傷を、見せてやる。
『今回のケガは時間かかったね神田くん』
「でも治った」
必要なものを持って、俺は外に出た。時間を無駄には出来ない。
『でも時間がかかってきたってことはガタが来始めてるってことだ。計り間違えちゃいけないよ」
キミの命の残量をね…。
『じゃないと、ちゃん泣いちゃうよ?』
…んなこと、分かってんだよ。だけど、俺は死なない。あいつを置いて…死んだりしねぇよ。
「で、何の用だ。イタ電なら切るぞ、コラ」
『ぎゃー!! 今ちょっとシリアスゥな雰囲気だったのに! リーバーくん聞いた!? 今の辛辣な言葉ぁあ!』
「早くしろ。マジで切る」
『…違いますぅー。次の任務の…』
風が吹いた。俺は何故だかその風が心地良く感じられた。
*
一段ずつ階段を上る。やだな、この階段…きっつー。
上に上るほど、歌声はハッキリ聞こえてくる。ああ、綺麗な声。
ララの、最期の子守唄。
ああ、夕焼けが眩しいや。
「この足音は…さん、ですか?」
「…やっほ、アレン」
アレンは一番上で座ってた。
私を見る表情はどこかやりきれないような、そんな顔。
「辛そうな顔ですね…」
「アレンこそ。辛いでしょ」
私はゆっくり、アレンの隣に腰掛けた。
「僕はさんが居れば、平気ですよ」
「あはは、そりゃ心強い」
嘘ついてるな、アレン。
知ってるよ。アレンなりに彼らのこと守りたかったはずでしょ。
いつだって、腹黒く自分や私の利のためだと言ってたけど…アレンは、心の奥底で何かを思ってたんだ。
その何かが、私には分からないけど。
「アレン。君は君なりに、何かを信じて祈って、アクマを破壊するんだよね」
「…はい」
「じゃあ、私もそうしていく。破壊はできないけど…守るからね」
もう、挫けたりしないで行こう。
アンジェラ、ソフィア、ララ、グゾル。彼らのためにも…私は強くなろう。
「さすがさんです。僕の愛するべき人です。結婚してください」
「…アレン。やっぱそこに行き着きたいんですか、アンタ」
「だって、さんから何かピンクピンクしてるものを感じるんです。
神田が何かしたんですか? そうなんですか? そうなんですね、さん!」
“神田”その名前を聞いて、少し動揺してしまった!
「へ、な、ちょっとアレン!?」
「その動揺っぷりはまさにそうなんですね? ケガ人だからって甘やかしてりゃ付け上がりやがって…。
今からこのマテールの大地に生き埋めしてやろうか。この地の守護神にしてやる、あの野郎…。
ふふふ、幸いあの人全治5ヶ月で死にぞこないなんですから。殺っちまっても不思議じゃないですよね!?」
「不思議だよ、摩訶不思議だよ!? 怪我だからね? 急に死んじゃったら怪しまれるよ! それに神田は――」
「誰を殺すだと、モヤシ」
もう、治ってます。完治ですよー!
「あれ…幻覚でしょうか。なんで全治5ヶ月の人が堂々とここに立っているんでしょうか」
「治った」
「ウソでしょ…。なんで僕が神田なんかを見なくちゃいけないんですか。あ、化けて出たんですか?」
「うるせぇ」
アレン、信じられないのは分かるけど…神田の自然治癒力の高さは化け物並からね!
アレンは気持ち悪そうに、自分より低い段に座った神田を見下ろした。
「やっぱ野生で生きてきた人は違うんですね。僕ら高貴な人間とは違って」
そういいながら私の肩をちゃっかり抱く。
おいおい、アレーン。アレンはどうだか知らないけど、私は高貴じゃないね!
ちょード庶民なんで、そこんとこよろしくぅ!
「オイ、から離れろクソモヤシ」
「うるさいですよ。紳士的な僕に嫉妬しないで下さい。醜いです」
「なんでもいい、こんなところで口論すな!」
私はアレンから離れて、立ち上がった。
あからさまに残念そうな顔をするアレン…こ、子犬みたいじゃないの!
「僕がそんなにイヤですか?」
「え、あー。アレンがイヤとかじゃないよ? お姉さんはアレンのこと可愛い弟のように思ってるよー!」
黒くなければ!! そういう意図をこめて言ってみると、アレンの目は急に輝きを増した。
「よかった…。僕を可愛い男として、そう…一人の男として見てるんですね!」
「ん? 今間違いを発見したんですけど、アレーン!」
「ってゆーか、お前らが黙れよ…」
神田が呆れて息を吐いた。
「コムイからの伝言だ。俺はこのまま次の任務に行く。お前とは本部にイノセンスを届けろ」
「…私は神田と一緒じゃないんだね」
ポツリ、とそう呟けば…神田が口の端をあげて笑った。あ、聞こえてた!?
さ、寂しいとかそういう意味で言ったんじゃないのに! 漠然とした疑問だったのにー!
「コムイ…つーか本部全員の懇願だ。は絶対帰って来い、だとよ」
「…なんでかなぁ」
「リナリーじゃないですか? 彼女、さんに会いたくて発狂してるんですよ」
アノデスネ、あの人。
…今、アレンが初めてリナリーに毒を吐いたよ!?
ってか、リナリーに恐れも持たないで悪口言える人類って生き残ってたんだ…!
まれに見る強者だと思いました…!
「でも、確かに…あの子ならそうかも。このままじゃ教団破壊されかねないわ」
「アイツの事だ。今頃うさばらしにいくらかの人間血祭りに…」
「ちょ、神田さん! それ言わないで、言っちゃいけないからー!」
私も神田も青ざめてるのに、アレンは飄々として
「大丈夫ですよ。本部に着いたら僕が始末します」
そう言い放った。アカーン!!
「な、なんで魔王を自ら敵にまわすようなことしちゃうかな!? ダメだよ、ダメ! 絶対ダメ!」
「いいか? アイツを敵に回したら厄介だ。被害が及ぶのはお前だけじゃねぇんだよ!」
珍しく、神田まで必死にアレンの行為を止めようと声を荒げて言う。これは止めないとだめでしょうよ!
でも、アレンは…
「だから、大丈夫ですって。テメェがどうなろうと知ったこっちゃねぇですが、さんだけは守りきりますから」
そういいきった。神田にはとてつもない黒い笑顔を、私にはそれを隠すような爽やかな笑顔を見せながら。
いや、だから! 大丈夫じゃないからね!? 命がいくつあったって足りない! 全人類生贄に捧げても足りないよ!?
黒の教団を中心とした嵐が吹き荒れちゃうよ…!
「ハッ…気付いちゃった。まさか、こうなることを防ぐ為に私は借り出されたんだ」
下手したら、今までの任務よりハードかもしれない…!
「神田…生きて本部で会えるといいね…」
「絶対お前に被害は及ばねぇよ。(俺のほうは100%呪いでも仕掛けられるな…畜生)」
「とにかく。会った時からいけ好かねぇ女だと思ってたんですよ。猫被るのもいい加減疲れましたし…この際です、ブチのめす」
あー…怖いよ。怖いすぎるよ、アレンさん。
「もーすぐ夜、か」
「辛いのか?」
「…ここまでくると、こみ上げてくるものがあるの」
「神田は獣だから分かりませんよ」
「テメッ」
神田は舌打ちをして、私たちから視線を外した。
「辛いなら人形止めてこい。あれはもう「ララ」じゃないんだろ」
「…だめ。2人の約束だもん。ずっとずっと、ララもグゾルも願ってきたこと」
壊すのは、グゾルの手で。
「甘いな、お前ら…」
目をふっと伏せて、すぐ強い眼差しで私たちを見た。
「俺達は「破壊者」だ。「救済者」じゃないんだぜ」
「………分かってますよ」
痛い位、分かってる。でも私も、アレンも、信じてる。
「でも、僕は…」
アレンが何かを言いかけて、ザッと、わたし達の背中から…風が吹いた。
「…歌が、止まった、よ…」
グゾルが死んで3日目の夜…ついに、ララは動かなくなった。
アレンがララの前でしゃがんだ。
イノセンスを取ろうと…手を伸ばした、その時。
――ありがとう。
ララの声が、聞こえた気がした。
ララを見れば、嬉しそうに…そして綺麗に笑ってる。
「ラ、ラ…?」
――壊れるまで歌わせてくれて。
ああ、そうか。ララは…報われた。
――これで、約束が守れたわ。
「ララッ!!」
私はララに駆け寄って、もう、痛々しいその体を抱きしめた。
分かってる。これは幻覚。
――ねぇ、…私たちのもう1つの願いは覚えてる?
…ああ、あれだね?
――お願い。どうか…どうか、コミケにー!!
…この世界だと、何処でやってんのかわかんないけど、了解。
最期にまた微笑んで、ララは崩れるように私の腕に落ちた。
ララ、お疲れ様。
「おい? どうした」
私とアレンは、零れ落ちる涙を…止めること出来なかった。
「神田…それでも僕は誰かを救える破壊者になりたいです」
アレンの、心からの願いと祈りだった。