今願うが叶うなら、私は迷わずこう答えるわ。

「グゾルと一緒に死ぬ」

彼の鼓動はどんどん遠のいていくの。

うん、分かってる。

一緒に生きてなんて我が侭はいえないもの。

老いていくあなたの体はもう限界。

だからね、私…貴方と一緒に壊れるよ。

そのときは、貴方の手で…。





萌えゆくもの、その願いとは





いつも束ねられた黒髪は解けて乱れている。
裂かれた胸元から染み出た血は…生々しい音聞かせつつ地面に滴り落ちていく。
私は…動けなかった。


ケケケケ


ニヤリと笑うアクマの顔は、酷く歪んでいる。


「…かん、だ」


神田は…辛うじて持ちこたえているようだった。


アレ? 死ねよ!


そんな神田に、アクマは容赦なく殴る。私は目を覆った。
ねぇイノセンス。

何で私は“護る”力を持っていて…あのアクマから神田を護れなかったんだろう…!
いざっていうときに足がすくんで動けないんだろう!!


「死ぬかよ…」


神田の…か細いながらに、どこか力強い…声。


「俺は…あの人を見つけるまでは…、何より…馬鹿な、アイツを放って死ぬわけには、いかねェんだよ…」


俺は…

それから先は…言葉が聞こえなかった。


ギャヒャヒャヒャヒャ。すげー立ちながら死んだぞ


私は顔を上げた。手に持った槍を握りしめた。




何してるんだろう。


何を甘えていたんだろう。


神田は、目標があるんじゃないか。


死んじゃいけない、死なせちゃいけない。


“護る”力ってなんだろう。


“護る”ってどういうことだろう。


傷つけさせないこと、心配かけさせないこと。


違う。


……そんなの、逃げてるだけじゃない。



“護る”ことは…“戦う”こと…!



神田と一緒に戦っていれば…見える未来は、違っていた!




テイヤァアアア!!!!



震える足に叱咤して、私はアクマに突進した。
そして槍を思い切り横に凪ぐ。殴打されたアクマは少しだけよろめいた。

私は神田を確認する…気を失ってはいるけど…微かながら息がする。
生きてる。まだ、大丈夫…!

私は神田の前に立ち、振り返ってアクマを見た。
アクマはダメージなんて無いみたいで、嫌味な顔して私を見てる。


何、もう一度遊んでほしい? でもさっきお前逃げたから…遊んであげない!

「もう、逃げたりしない…!」



ギッとアクマを睨みつける。
もう、神田やアレンだけが戦うなんてことさせない。
私だって戦うよ。アクマを壊せなくたって…戦うことは出来るんだ。


辛いことが多いけど、君は…エクソシストだよね?


コムイさんの言った言葉に迷わず返事をした私。
あの時私に迷いはあった? ううん…なかった。


私だって、エクソシストなんだから!



…じゃあ片付ける!

一龍『銀』護ノ銀…!


戦い方なんて知らないけれど。
思い出せ、あの時…アンジェラと戦った時…私は勇気を振り絞れて居たでしょう!
今は耐えろ、戦え!



何だこの壁ー!

耐えてみせる…んだから!



答えてイノセンス…!



私は、戦って護りたい!!




私がそう思った時…一瞬だけイノセンスが光った気がした。
でもすぐに



「お前ぇえぇえ!!!」


アレンの怒声が聞こえて意識がそっちに向かっちゃったけど。

アレンはアクマの体を二つに引きちぎり、上半身を彼方に吹き飛ばした。
考えてみればなかなかグロイ光景だけど…ここはあえてスルーだ!



「アレン!!」

「無事ですか! さん!」

「うん! 神田も息がある、まだ大丈夫! ありがとう」

「いいんです、さんが無事なら…。神田も大した生命力ですね、死んでも死なないみたいじゃないですか

「ん?」



なんか一瞬…アレンさんの微笑みが怖いものになったような気がする…!?


「とりあえず、落ち着いて手当てできる場所に移動しましょう。
 神田は僕が引き摺って……、いえ、背負っていきますから、さんはトマをお願いできますか?」
「う、うん」


どうも彼…リナリー属性、らしい!?



それにしても…イノセンスが光ったのは、もしかして?






トマは少し酷い怪我だけれど、肩を貸してあげれば歩けるぐらいだった。でも凄く辛そう。
くっ、ここで私が紳士でさ、ひょいっとトマを抱き上げられたら良かったのに!

あーもう! なんで男に生まれられなかった!? いや、生まれてたら腐女子の道進まなかったろうけど!

というかさ、黒姫の歯ならトマぐらい持ち上げられるんじゃないの?
そう思いながら見上げてみれば、ティムと一緒にパタパタと飛んでいる…畜生!


「スイマセン、殿…」


私の不満を察したのか、申し訳なさそうにトマはそういった。
トマが悪いんじゃない、悪いのは黒姫だ!(声には出せないけどね…!)


「気にしないでよー! ほら、私は元気…」


身体的にはまだ元気。精神的には…少しだけ痛い。
神田を背負うといったアレンだけど、結局神田がデカかった所為か、半分引き摺ってる

け、ケガ人だけど…多分一番酷い怪我だけど!?



「アレン?」


アレンは険しい顔をしている。私は心配でアレンの名を呼べば、彼ははっとして私に振り返った。



「なんですか、さん」

「ううん、深刻そうな顔をしてたから…。やっぱ気になる? さっきのアクマ」

「ええまぁ。先ほどのアレでくたばったとは思えませんから」


紳士アレンの口から“くたばった”なんて聞きたくなかったヨ


「アレン、気付いてるか気づいてないか分からないけど、紳士的口調が乱れつつあるよ

なんのことですか、僕にはさっぱりわかりません!

しらばっくれたー!!



ちょっとこの子! リナリーより可愛げあるけど黒さは同格だよ!
手に負えない! こんな子に育てた親の顔を見た…そうか、クロスだな。
変態赤毛仮面野郎のせいで、こんな歪んだ子に育ってしまったんだね…同情するよ!


「かわいそうなアレン…」

「はい?」

「クロスのせいで、そんな汚れた…ううん! 何も言わないわ! どんなアレンだって受け入れてみせる…かな?」

「嬉しいですさん! それじゃぁこの任務が終わったら…」


僕の婚約者になりましょう!

いや、だからさ、ぶっ飛び過ぎだってばアレンやい



突っ込もうと私が口を開くと、耳に何かが聞こえた。

これは…歌?


さん?」

「シッ…。何か、聞こえる」

「これは……歌…ですね」


この声は…



――『神に見放された土地』と言われたマテール。
そこの住民たちは絶望を忘れる為に人形を作ったのである。
踊りを舞い、歌を奏でる快楽人形を。


「人形…か」


その声は高く澄んでいて、とてもあの老父の声とは思えなかった。
少女のようなこの声は、むしろあの腐女電波ドール…あの少女の声じゃないの?


「こっちから聞こえます、行きましょう」

「うん」


また出会えたら…あの2人は…萌え云々を語ってるのかな…なんて。







「泣いているのか…? ララ」


歌が途切れて、今度は会話が耳に飛び込んだ。
私とアレンは物音を立てず近づいていく。


「変な事を聞くんだね、グゾル」

「何か…悲しんでいるように聞こえた」

「私は人形だよ…? ねぇ、どうして自分が人形だなんてウソついたの?」


やっぱり。思ってた通りだったんだ。
アレンはその事実を初めて知ったみたいで、凄く驚いた表情をしていた。


「ララを他人に壊されたくなかった」


グゾルさん、あなたって…すごく純粋…


「それにまだコミケに出展してない…! 夢半ばで壊れるなんて嫌だろう?」

分かってるわね! さすがグゾル!」


純粋に…萌え盛ってるだけじゃねぇかコノヤロウ


「ララ…ずっと側にいてくれ。そして私が死ぬ時、お前の手で…」

「それも分かってる、原稿を出展させるんだね!


感動をくれ、おまいら

つーか泣くなグゾルさん。お前の感動はその程度か?
いやいやいや、アダムとイヴじゃ無かったのかお前たちよ!!


私は呆れていたんだけど、アレンは。


さん、彼らの電波僕ら2人の甘い空気を乱しているので破壊してきてもいいでしょうか?

「いーやアレン! 甘くないし、それになにより任務とは逆方向の方向に走ってると思うんですが!?


あ、やばい。思わず大きな声でツッコミいれちゃったやーい!

ララがばっとこちらに振り返った。私たちは2人で彼女を凝視する。


「ラ、ララ」

「いいの。分かってる、それが結果だったのでしょう?

「え?」


結果…?


「あの、結果って…グゾォル! メモ帳とペンを持ってェ!!…何か聞きたいすでに装着済みだよ、ララ!…」


聞けや


そう突っ込む前にララはすごい勢い(興奮からきている)で石柱を持ち上げて私達の方に投げてきた!
どぇえ!?
一体なんでこうなる! ララの何処にそんな力がある!?

つーか、それでも動じないグゾルがすごいわ!


「禁断の恋の果て、やっぱり振り返れば女の子…そうがいた!

「ま、待って!」

への愛に気付いた黒髪の男と白髪の少年、2人のそれまでのはいつの間にか憎しみへと変わった。
 そう! と言う1人の少女の存在で! ハァハァ、グゾルだめ、もう萌え死に、アア! イきそ…

そういいつつ元気に石柱を振り回すなぁああ! ってギャッ


粉砕した石柱の粉が降りかかってくる! これって吸うとヤバイんじゃ…! アスベ●トじゃ!?
そんなこと思ってると、イノセンスを発動させたアレンが私を庇い
投げられた一本の石柱を受け止め、ララに向かって投擲…



死刑です、僕と僕のさんで酷い妄想をしくさりましたからね

「え、所有物ですか!? っていうかアレーン!?


私は精一杯アレンを押し留めるけど、そのまま投擲してしまった!!
回転しながら石柱はララのほうに向かう…けど、弧を描いて彼女の周りの石柱を破壊する。


「一気に間合いを詰めますよ!」

「え、あ、ん? のげあああ!?


ちゃっかり私の腰に右腕が添えられていて…すごい勢いでララへと突進!


石柱はララのほうへ戻ってくるけど、それをアレンは左腕で受け止めた。


「もう投げるものはありませんよ。さんに感謝してください。
 本当はイノセンス関係ナシにぶっ壊そうと思ってたんですからね、ええ全く」

「く、黒い! アレーン! ここに来る前のあなたに戻ってください! 後生ですから!」

「フフフ、その腹黒さもなかなかオイシイの!」

「そうだね、ララ!」


ここでマトモなのは私だけなの? そうなんですか神様!?


「さっさとイノセンス寄こしてください。出すもん出しましょうよ

「ダメだ…それを取るとララは…」

知ったことか。ほら、早くしないと僕の手でやるハメになりますよー
 大事なララはあなたの手で壊したいんですよね? そこは譲歩してるんですから、さっさとしましょうよ、あ?


鬼が居るー!!
リナリーが魔王の申し子なら、この子は地獄からの使者だよ!



「ッやめて! グゾルも私も夢を追いたいだけなの!」


そういいつつ、漫画のネームを描き始めるな!


「この原稿を書き上げたらいいわ、これが私達の夢だもの」

「ちょっとララ、落ち着こう! というか…グゾル! あなた…いや、あなた達、何か隠してる?」

「何でそう思うの?」


え、だって展開的にシリアスなはずなのに…
こんだけぶっ壊れちゃってたらそう感づかずには居られないって言うのかな?


そう言いたいのは山々だけど私は濁して「なんとなく」と答えた。
するとララはネームを描く手を止め…私たちを見上げた。


「グゾルは…もうじき死んでしまうの。これは本当、元気に振舞ってはいるけれど」


…そんな…最初の咳き込んでいたアレは、演技じゃ無かったってこと?


「2人でずっと生きてきた。いろんなことに挑戦した。でも、これが最後…」


チラリとネームとメモを見るララ。


「お願い、グゾルが死ぬまで私を彼から離さないで。この心臓は、あなた達にあげていいから…!」


欲望の後ろ側には、2人の切ない思いが…託されていた。




私たちはとりあえず落ち着き、神田とトマの応急処置をしておく。
神田はまだ目が覚めない。息も荒い…けど、傷口は段々と塞がり始めた。やっぱ治りが早いよ、神田。

神田の頭の下に、アレンのコートを丸めて敷く。(私ので…と思ったんだけど、アレンが差し出してくれて…)


…悲しそうね」

「ん? ララほどじゃないよ」

「私は悲しくなんて無いわ。グゾルは…ずっと傍にいてくれたから」


ララの話してくれた話は…書かれた文章とはまた違った話だった。
500年、ララは人々の去ったマテールで1人だった。
人がいなくなっても、迷い込む人がいないわけじゃなかった。
そうしてやって来た人に、人形としての役割を果たそうと「歌はいかが?」とララは聞いた。
でも人々はララを受け入れず、「化物」と罵って叩きのめしてきたらしい。
ララは悲しかった、悲しみに耐えきれず…彼らを手にかけてしまった。
そんな時に、グゾルさんが来た。彼はその頃子供で、迷い込んできた6人目だった。

彼は、嬉しそうに泣いてララを受け入れた。自分のために歌ってほしいと、望んだ。
それが…80年前の出来事。



「80年、長かった?」


私は何気なく聞いた。ララはふっとめを細めて


「うん、長かった。グゾルの成長…そして老化が時の長さを物語っていたもの」

「そっか」


きっとララは苦しくなんか無かったんだろう。
どんなにグゾルさんが衰えても、彼は傍にいてくれたから。

だから、決意できたんだね。彼が死ぬとき…イノセンスを渡すって。



「…ああそうそう、?」

「何?」


私は神田の汗をふき取りつつ返事する。


「漫画、書き上げちゃった」

早ェな、ヲイ

「うふふ、萌え滾る精神力っていうのは、限界を超えても超え切れないんだよ?

意味分からないよ!


ふふふと笑うララは、満足げで。
グゾルさんの側に戻って…彼をいとおしそうに見つめていた。


「グゾルわね、もうすぐ動かなくなるの…心臓の音がどんどん小さくなってるもの。最後まで一緒に居させて」


…それは、ただ1つの願い。


「グゾルが死んだら私はもうどうだっていい。この500年で人形の私を受け入れてくれたのはグゾルだけだった。
 そんなグゾルのためにも…私に、最後まで人形として働かせて!」


強くも儚い、願い。

私は叶えてあげたかった、それをアレンも察しているようで。
私たちは唇を咬み、2人を見ていた。


ずっと幸せだった2人、こんな形で分かれる日が来るなんて。
ううん、それが2人の幸せなのかもしれないけれど。



ダメだ


そんな時、私の側から力強い否定の声が飛ぶ。


「か、神田…!」



良かった…。目が覚めたんだ。
安心して息をつく。神田はチラっと私を見たけど、すぐにアレンを見据えた。


「その老人が死ぬまで待てだと…?」


神田は全部聞いてた。
聞いてて、最善の方法を選んだんだ。


「この状況でそんな願いは聞いてられない…っ!?」



でも、それは…!


私は神田に抱きついた。
神田の言い分は尤もで、分かりきっていることだった。


「私ね、もう嫌だよ」


だけどね目の前で、誰かが消えていくのは嫌なんだ。



「神田が気絶した時、私どうしようもないぐらい怖かった。それと同じぐらい情けなかった。
 護るって言って、迷惑かけないって言って…結局は誰かが傷ついたんだ。でもね…」


私は神田を抱きしめる力を強めた。自然とそうなったのだけれど。


「思い知らされたんだ。戦わなくて護る事って出来るのかなって。出来ないよね?
 目の前で苦しんでる人を、神田やアレン…みんなが戦っているのを、私は遠巻きに見てる。
 そんなことしてて“護る”なんて口にすること、よく出来たよ。
 神田、私ね。ソフィアを壊した時の勇気…今思い出したよ。彼女は報われなかったけれど
 ララやグゾルは報われたっていいと思うの。私は、そのためなら戦う」



それだけ言うと、泣きそうで怖くなった。
だからすっと神田から離れた。そしてララとグゾルさんのほうに歩み寄った。

ララは心配そうに私を見上げていたけれど、それに構えるほど…強くは無かった。


「ッ、モヤシ!」

「僕も取れません。取りたくない。さんと…同じ気持ちです」


アレンも強い口調でそういう。バシッと何かがアレンに当たった。
目線をアレンに向けると…アレンはコートを握ってた。



「その団服はケガ人の枕にするもんじゃねぇんだよ…! エクソシストが着るものだ!」



…うん、そうだね。このコートはエクソシスとだけが着ることができるんだ。
アクマを破壊すること、イノセンスを守ること、その全ての任を背負ってる証。


ふっと神田を見れば、すこしやりきれない顔で


「犠牲があるから救いがあんだよ新人」


そうアレンに投げかけた。


六幻を手に、こっちへと迫る。私も2人を庇うように立つ。



「どけ、

「どかない」

「どけ!」

いやだ!!


私もイノセンスを手に持ち、神田と対峙する。
分かってる…神田の言いたいことだって分かってる!

あの食堂の時だって、本当は分かってた。分かってたけど…分かりたくなかった。
神田は、ただ“エクソシスト”でありたいんだ。その任務の為に生きてるんだ…!


「2人の願いを奪うというのなら…私は神田と戦う!」


今だって、分かりたくないだけ。神田の言い分を否定して、甘えたいだけ!


「じゃあ僕がなりますよ」


声色が低くなったアレンが…いつの間にか私の前に左腕を突き出していた。


「僕がこのふたりの「犠牲」になればいいんですか?
 僕だって…さっきまでは容赦なくイノセンス取ろうとしましたよ。ええ、それが何か?
 関係ありません。僕は今、この2人を守りたい。自分の望む最期ぐらい、いいじゃないですか。
 それに、もう犠牲が出ているんです。…神田、貴方はさんの涙を見て何とも思わないんですか」

「ッ!」



そこで初めて気付く。私の頬を、涙が伝っていた。
耐えられなかったんだ…神田の思いと私の思いの反発に。



「僕は…大事なものを昔失くしています。可哀相とかそんなキレイな理由あんま持ってないよ。
 自分がただ、そういうトコ見たくないだけ。それだけだ」


アレンは呟くような口調でそういった。まるで過去に…アレンは誰かを失ったように。


「僕はちっぽけな人間だから、大きい世界より目の前のものに心が向く。切り捨てられません。
 伯爵との戦争よりも、目の前で涙するさんを…切り捨てるなんて出来ません。愛ゆえに


愛ゆえって…うん、最後の方はスルーしておく。
アレンの言いたいこと、ちゃんと伝わったよ。私も伝えなくちゃ。


「神田、アクマを壊そう。壊すことが出来ればアクマの魂も…ララたちも救えるの…」



そのためのエクソシスト。私はそう思ってる。

神田が神妙な顔をしている、私だってもう神田と争うなんてしたくない。





そんな時、不穏な空気がこの部屋に侵入して…



「グゾル…」



グゾルさんとララは…何者かに連れ去られていった。



「ッ!!」



私は精一杯手を伸ばす…でも、届かない。



2人は土の中に…。


「奴だ」


アクマが…やってきてしまった。
土の中をぐるぐると徘徊し姿を見せた頃には…

光り輝くイノセンスと姿を変えたララ、そしてアクマの手によって貫かれたグゾルがその手にあった。


イノセンスもーらいっ!!


そう言ってグゾルさんとララを放る。
私は2人に駆け寄った…お願い、死んじゃだめ…だめだよ!


「グゾルさんッ!」

「ラ……ララ…ララ……」



精一杯手を伸ばし、動かなくなったララに触れようとする。



「ッ!」

ほぉーこれがイノセンスかぁ


私の頬を温かな水が伝う。涙が…溢れてくるよ。


でもすぐに、背筋がぞくっとしたんだ。



返せよそのイノセンス



気付けばアレンの左腕がボコボコの変化していってる。
このぴりぴりしたのはアレンの気迫…!


返せ


その顔は…酷く恐ろしい形相。


「アレン…」

さん、大丈夫です。貴女を泣かせる輩はなんびとなりとも地獄行きです
 人であろうがアクマであろうが…関係ありません。僕の怒りはおさまりませんよ」


怒ってる理由、そっち?


「ウォ、ウォーカー殿の対アクマ武器が…」

「造りかえるつもりだ」

「どういう、こと?」

「寄生型の適合者は感情で武器を操る。宿主の怒りにイノセンスが反応してやがんだ」

「じゃあ…あれは…やっぱり、怒って…」



怖い、そう思うんだけど…アレンはただ、純粋に怒ってるだけなんだろうか。
違う。そんなんじゃない。凄く禍々しくて重い。

アレンは本当に怒ってる。心の底から…。


「ラ…ラ」

「…グゾルさん!?」


グゾルさんの声が弱弱しくなっていく。もう声は、聞こえてこない。


「やだ、いやだ…! 死んじゃダメ、生きてよ…ララと一緒に生きるんだ!」

、しっかりしろ!」

「神田、また死んじゃう…私はまた…また!!」


ソフィアのときと同じ――!


「護るんだろ!!」


神田が私の肩を掴んで正面向かせて、強い視線でそう言った。


「大丈夫だ、奴らの望みは生きてる! 失望するな、悲観的になるな! 戦うんだろうがッ!」


神田の言葉が……


「ッうん!」


私を強く保たせる。



気付けばアレンは…今までとはまるで違う形に左腕を変えて…そこから光線状のもの撃った。


私もグゾルさんを見て唇をかみながら…立ち上がる。


「聞こえる? 『神空』、私…護りたい」


やっぱり、さっきのは幻覚じゃなかったんだ。手に持っていたイノセンスが強い光を放って…


―――久しぶりね、


ああ懐かしいね、声が聞こえたんだ。


―――新しい力が使えるようになったわ。これでまた護れる…といいわね


何だそれ! 他人事だ!


―――え、だって。わたし、貴女のイノセンスだから、貴女以外が死のうが死ぬまいが関係ないってみたいな?
まぁ、それでも強くなっていくには貴女の意志の強さが必要なんだけれど…もう十分ね。
これからは、経験が貴女を強くするわ。野郎共を踏み倒し、その屍の山の上に立った時貴女は…


ストーップ!! 屍の山って何! やだ、絶対イヤだ!!


―――うふふ! さーて来週のわたしは〜!


そのノリ、某テレビ局のご長寿アニメ番組の予告のノリな気がするんですけど…。


―――気にしない! こういう地形だから使える力よ。砂、瓦礫…絶好ね! 扱うのは大変だけど…大丈夫!


ありがとう。


―――いいのよ。お礼はわたしに野郎共の生き血を吸わせてくれれば


怖いッ! いやだよ!!


―――使い方は…貴女の直感通りでいいわよ。アクマはまだ、壊せないけど…攻撃は出来るはず!


うん。


―――さぁ、行きなさい…



「行こう…神空!」



大地が…震える。私の力に反応したのかな。



…これは」



大地の揺れに気づいた神田に、私は涙を拭いながら笑って答える。



「私の力だよ…護る、絶対にイノセンスは渡さない…!



アレンはまだアクマと対峙してる。あのアクマ…地中にもぐってるんだね…!



「あのアクマは砂に変化しているんです」

「だから捉えにくいんだ…って、アレン!」


アクマが突然出てきてアレンを飲み込んだ!! アレンッ!
ああ、一緒にティムキャンピーまで!


「ケケケ、捕まえた! もうダメだ、もうダメだお前!!」


そうして何度もアレンの居るはずのお腹を何度も突き立てる…ッ!


「…黒姫?」


黒姫は動かない。ということは…ティムは大丈夫?


「アレンは…生きてる。死なない、ううん…死なせない!」


だから…



―――新しい力を持つ龍が、吼える



三龍『地』、戒ノ地!!



槍を大地に突き立て…行ってお願い!!




土が盛り上がって、アクマの足元までたどり着いた。
砂になったって…中身はあのアクマ…逃がしちゃダメだ!



固まって!!



そこで土の硬度が変わる…アクマは表情を変えた。



あれ…動けない?


アクマの砂ごと固めたんだから…簡単に動かせない!!


「アレーン!!!」


私の声に反応して…アレンが背中側から出てくる。
左腕がまるでビームサーベルみたいになってる…すげー! スター●ォーズだ!


「ありがとうございます、さん!」


そして上から真っ二つにアクマを裂いた…!


あ! 砂の皮膚が!!

「これで生身だな」


よしっ!


「私も加勢する…生身になってるんなら…二龍『風』、戒ノ風!!


次は風で奴を束縛する。


な、なんだ!!

アンタは許さない! 2人の夢を…ささやかな夢を奪った…許さない!


強く強く、締めていく!


「僕にもやらせてくださいよ…さんッ! その脳天ブチ抜いてやる


アレン…黒い! 黒さとは相反した白い光線をアクマに撃ちだす!
絶対に負けない!!


体は動けなくても…腕は動かせる! へへっお前の腕があるもんね!!


腕一本で勝てると思う? 怒りに黒さを増したアレンの攻撃を…!
模造品が本物に勝とうなんて、100万年早いんだよ、ボケィ!!


案の定押しているのはアレンで、この押しにアクマは驚いてる。


く、くそっ何でだ! 同じ奴の手なのに…なに負けそうなんだよぉ…!!


イノセンスと同等の力は、アクマに使える訳無いじゃん。
イノセンスとのシンクロ率が上がれば上がるほど、私たちエクソシスとは強くなれる。
私も…アレンも、今凄くシンクロしてるんだ! それに勝つなんて出来ない!


勝てる! そう確信した時…アレンの攻撃が止んだ。なんで!?


アレンッ!


アレンは片膝と付いて左腕も元に戻ってる。って、吐血してたの!? 血が……ッ!


「ッ!? キャア!!


私は何かに弾かれたような圧力に吹っ飛ばされた!
戒めが…解かれてしまったんだ…どうしよう!


アクマは私に向かってニヤリと笑った。その目はひどく充血して…見開かれて。
その目はアレンに向けられる…まさかアレンを攻撃するの!?


私は走ってアレンの前に立つ! そして槍を構えて銀の壁で防御しようとしたけど…
技の発動よりも、アクマの方が早い!!


もらったぁ!!


もうだめだ…、アレンを庇うように立って衝撃を待つ。


ガキンッ



でも、待っていた衝撃は来なかった。…鉄がぶつかる音。この音は…もしかして…!



神田ッ!?



神田が私の前に立って六幻でアクマの腕を受け止めていた…そんな!


馬鹿野郎! 無理すんな!

「お互い、様じゃない!!」


そんなこと言いつつ、神田が来てくれたことが嬉しいんだ。


「ちっ、この根性無しが…こんな土壇場でヘバってんじゃねェよ!!」


って、守ってくれて嬉しいけど、いきなりのダメだし!!
そんな声張り上げたら腹から血が…ああほら! 傷口から血が滲み始めてるし!


「あのふたりを…ッを守るとかほざいたのはテメェだろ!
 俺は…お前みたいな甘いやり方は大嫌いだが…口にしたことを守らない奴はもっと嫌いだ!」


そういう神田に…私は涙が出た。私とアレンの気持ちが、伝わったんだ。
気付くのが遅いんだよ、ツンデレ神田めっ!


「どっちにしろ…嫌いなんじゃないですか…。まぁ僕も…あなたなんて大嫌いなんですけどね

そこで突っかからないでよアレーン!


私はアレンを見つつそういうと、アレンはふっと笑った。


「別にへばってなんかいませんよ。強くなったさんに悶え死にそうになっただけです

悶え…ッ! 私もアレンに萌え死…

嘘言うんじゃねぇ! つーかものるな! …いちいちムカつく奴だ」


そう言いつつ、神田は受け止めていたアクマの腕を切り落とす。


!!


ひるんだアクマを…



「もう少しだけ頑張ろう、神空…ッ三龍『地』、戒ノ地!!


最後の力振り絞って拘束する! 何とか捕らえられたか…!


「行ってアレン! 神田ァ!!」


私が叫ぶと同時に…アレンはイノセンスを発動させて撃ち出し、神田は六幻の界蟲「一幻」を放った。


アクマは断末魔とも取れる声を上げて…夜空へと散った。





終わったよ…グゾルさん、ララ…。

私は力抜けたようにぺたんと座り込んだ。
神田もアレンも地に倒れこんでいる…気絶してるみたい。


そんなとき、空から舞い落ちるようにイノセンスが降ってきた。
それを私は優しく抱きとめた。


「…ララ、グゾルさん…」


涙は出なかった。泣いちゃいけないと思った。
まだ願いはかねられる。ララの命はここにあるんだから。


「歌おう、ララ。グゾルのために」


私はイノセンスをララに戻す。


イノセンスを取り戻したララはぎこちないけど…動き出した。
でも…


「人間様…歌はイかが…?」


それはもう、「ララ」じゃなくて…グゾルさんに初めて会った時の人形だった。
私のことも見えてない。ただただ、グゾルさんに手を伸ばす。


「人間様…私は人形…歌いマスわ……」


人間さま…。

もうグゾルさんの名も呼ばない。もう…ララはここにいないの?


「ぼくのためにうたってくれるの…?」


かすかな声が聞こえた。グゾルさんが…グゾルさんが…!
私はそばに駆け寄った。彼は涙し、嬉しそうな顔をしている。


「ララ」


もう、彼女は一緒に居た「ララ」でなくなってしまったけど…それでもグゾルさんにとってはたった1人の“彼女”。


「大好きだよ」


愛の言葉を呟いて…グゾルさんは……息を引き取った。
ダメだ…涙腺が緩む、まだだめ、まだ泣いちゃだめ…!


ララはグゾルさんを見つめて、貼り付けられたあの笑顔のまま…。


「眠るのデスか? じゃあ子守唄を」


ふっと聞こえた優しい歌は…いとも簡単に、私の涙を攫っていった。