忘れ去られた町には、息づくものがある。

それは形あるもの。

そう、だから人はこう呼ぶ。

『奇怪』と。




土翁と空夜のアリア(+お馬鹿戦線)




「ちょ、ちょっと待ってよ!
「そうですよ!おかしいじゃないですか!」
アレンはともかく、私にはついていく自信も何もないよ!?」
「うるせぇ!こうしてる時間も惜しい!」


ピシャリと言う神田に、私もアレンも黙った。
ちっくしょー! 黒の教団ってこういう人たちの集まりなのか!



さて、初っ端からお見苦しいところをスイマセン!
現在何をしていたかと言うと…


飛び乗り乗車についての論議なのさ☆


って飛び乗りなのか! 飛び込みじゃなくてさ!
建物飛び越えていくらしいよ! 忍者の如く颯爽と! カンベーン!


「神田は超人かもしれないけど、私はいたって一般ピーポーなんですよ。パンピーなんです」
「ひねくれたこと言うんじゃねぇよ、馬鹿女」
「なんとでもいえば」


…あーもう、何でこー苛立つのさ!

神田は普通に接しようと心がけてはいるようだった。
だけど私は、イマイチその流れには乗れない。
神田がいつも通りなんだから、こっちも「神田に馬鹿って言われたくないよ! 単細胞め☆」とか
もう腐女子心満開でいけばいいのに、さ。

神田は何か言いたげだけど、その言葉は発せられなかった。


「…お時間です。行きましょう」


探索部隊の人がくぐもった声でそういった。行くっきゃないか…!


さん、僕がサポートしますから一緒に頑張りましょう!」
「う、アレン…優しいよー! お姉ちゃんは嬉しいよー!」


つっても1歳しか変わらないのに! 何この輝かしい笑顔!
なんていうか若さ溢れてるって言うか…心のオアシス? きゃー萌える!


Goodjob!
「ど、どうしたんです?」
「なーんでもない! お姉さんの戯言だよアレンたん!


私たちは、地下水路を抜け疾走した!


走りながらアレンは資料を読んでいる、器用だな!

だって片手は私の手を掴んでるんだよ!?

真横でティムと黒姫が一緒に飛んでいるし、少し前を神田と探索部隊の人が走ってる。
うっわー! 完全に私、運動不足じゃないか! もう息あがってるんだよ? ムリムリムリー!!


いつの間にか階段を上がり、人様の家の屋根を飛び越えて走る! これ私1人だったら絶対落ちてますって!
でも、すごいなぁアレン。あの細っこい体のどこに筋肉があるの?
自慢じゃないけど、私の体はそこそこ重いぜ? 分かってるかい少年!
それを飛び越える片手で持ち上げるんだから、すごいすごい!


イノセンスの力? いや違う、これこそ愛! パワーオブラヴ!


冗談は置いとけ、自分!


「あの!」


アレンも神田も探索部隊の人も、どこかの屋上の塀に手を突き飛び上がる。


フワリと体が浮いたと思ったら、風が耳元を通る。落ちてるって! 落ちてるって!


「ちょっとひとつわかんないことがあるんですけど…」
私は飛び越えていく理由が未だ分からないぃぃぃい!!


がっしりアレン腕でつかんで離さない様にする。
離したら死ぬ、というか離さなくて死ぬってば!


うふふ、だったら死ぬ時はアレンも一緒よ! 地獄の果てまでランデブー!!


「お急ぎください。汽車がまいりました」
でぇえ!? これに乗るんですか!」


探索部隊の人なんて冷静なのさ!


さん! しっかり掴まっていてください!」


言われんでもそうしてます…!!




バンっと体が汽車の上に叩きつけられたような感覚だった。
衝撃は最小限に済んだ…アレンのお陰だぁ!

しかし、飛び込み乗車もしたことないのに…。


「あ、ありがとうアレン…でも飛び乗り乗車は…ちょっと
「いつものことでございます」


いつもなのか。いいのか黒の教団。前の任務では至って正当法で汽車に乗ったぞ?
あれが異例なのか、私がおかしいのか? クレイジーなのか!!


ふっと背中に神田の方がぶつかった。
私は近いその距離にびくつき、すかさず離れようと少し立つ。


ッギャ!


だが、ここは走る汽車の上! 風はすごい勢いで私の体を襲う。
よろめいた私の腕を神田が掴んだ。


「下手に動くな馬鹿!…飛ばされるぞ」


抑揚のある短い言葉。それだけで私の心は揺れ動く。罪悪感とかそういうの。
でも、この風は怖い! ヘタには動けない。

神田に何も言わず腕を離してといわんばかりに引っ張ると、すっと手を引く。
結局そのまま身を低くして、探索部隊の人の指示に従っていった。


中に入る場所を見つけて、一番最初に探索部隊の人、次いで私が入る。
そりゃスカートだからね! 探索部隊の人も、私のスカートの中を見られないよう気を配ってくれたんだね☆
まぁ見られても平気なんだけどさ、ほら…見ちゃった人が鼻血出したら大変!
…すんません、うそです。嘔吐の間違いですね!


中に入るとボーイさんがかなり驚いてるよ!
そりゃ驚くわな! 意外なところから「こんにちは」だし!


「困りますお客様!こちらは上流車両でございまして、一般のお客様は二等車両のほうに…」
待って、突っ込むところそこじゃないよねアナター!!


入ってきた場所をまずつっこめ!



探索部隊の人が黒の教団の名前と要求を言うと、ボーイさんは顔の色を変えて畏まった。
あー、あれか。黒の教団の特権?


「何です、今の?」
「私たちの胸にあるローズクロスが、いろいろなところの入場を認める証みたいなものなんだってー」
「へぇー便利ですね!」
「いわば、職権乱用って奴だよアレン☆


これがあれば、あんなところやこんなところまで行き放題っていうことサ!

わぁ! お得!




なんてお昼のテレビショッピングのようなやり取りに誰かの深いため息が聞こえた。

そんな私たちに向き直り探索部隊の人がいった。


「ところで、私は今回マテールまでお供する探索部隊のトマ。ヨロシクお願いします」
「トマ、ね。私はだよー、ヨロシク!」
「僕はアレン・ウォーカーです、よろしくお願いします」


ところで隠してる口元、解いたら美形だったり?

それは秘密でございます



さてはて、一室用意された私たち。トマは部屋の外で待機中。
私はアレンの隣で資料をひと通り読む。


マテールの亡霊…。
「古代都市 マテール」今はもう無人化した町だが亡霊が住んでいる。
地元の農民が語る奇怪伝説が調査の発端だった。
亡霊はかつてのマテールの住人。町を捨て移住していった仲間たちを怨み、その顔は恐ろしく醜い。
孤独を癒す為に町に近づいた子供を引きずり込むという…

ってなんか聞いたような話だなぁ、子供を引き込むって話。


「で、さっきの質問なんですけど…」


アレンがおずおずと神田を見ていた。


「何でこの奇怪伝説とイノセンスが関係あるんですか?」


あーそれか、私も聞いたけど…イマイチよく分かってないんだよネ!
とりあえずイノセンスが不思議な力を持ってるってことぐらいしか…


「チッ」


神田は舌打ちし、面倒そうに話しはじめた。
ここにリナリーがいたらきっと血祭りワショーイ! だったろう。

アレンはそんな神田に嫌そうな顔。


「イノセンスってのはだな…大洪水(ノア)から現代までの間に様々な状態に変化している場合が多いんだ。
 初めは地下海底に沈んでたんだろうが…
 その結晶の不思議な力が導くのか、人間に発見され色んな姿形になって存在していることがある」


予想以上に丁寧な神田の説明に、思わず私も耳を傾けてしまった。
ノアって…ノアの方舟? 旧約聖書のアレか! へぇ!


「そしてそれは、必ず奇怪現象を起こすんだよ。なぜだかな」
「じゃあこの『マテールの亡霊』はイノセンスが原因かもしれないってこと?」
「ああ」


アレンって頭いいなぁ。
すぐに理解して判断で来ちゃうんだから!

感心してると神田とまたも目が合い、ばっと私は資料に視線を戻す。
あー! 次々!


私は次のページをめくる。
そこに書かれていたのは驚愕の事実。


「…え、これ…」
さんも気付きましたか?」


うん、と1つ頷く。
今資料を呼んでいる神田も驚いたようだ。


「これは…」
「そうでございます」


部屋の外からトマが話しはじめた。


「トマも今回の調査の一員でしたので、この目で見ております。マテールの亡霊の正体は…」



そっか。亡霊じゃなかったんだ。




「ところで、トマは何してるの?」
「マテールにいる他の探索部隊と連絡を取ろうとしているのですが…通じません」
「…電波不良かな」



だってマテールは岩と乾燥の中なんでしょ?





汽車をおり、私たちは一斉に駆け出した。
神田が言った一言が、私たちを駆り立てた。

――無線が通じないってことは…何かがあったって事も考えられる。

アクマが、探索部隊の人たちを襲ってる…!
心臓が凄く高鳴っていた、息もいつも以上に荒くなる。


「それにしても…マテールの亡霊がただの人形だなんて…」


『神に見放された土地』と言われたマテール。
そこの住民たちは絶望を忘れる為に人形を作ったんだって。
踊りを舞い、歌を奏でる快楽人形を。

でも結局、人形に飽きた人々は移住していって…人形は置き去り。
それでもずっと…500年絶った今も動いている。


「イノセンスを使って作られたのならありえない話じゃない」


かんだがそういった瞬間、息がつまりそうな空気が私を襲う。
な、なに…!


ッ!!


荒れた大地、銃弾のようなものに打ち抜かれた建物。
あれは…やっぱりアクマの仕業なの? 冷たい感覚に、私もアレンも息を飲んだ。


「ちっ、トマの無線が通じなかったんで急いでみたが…殺られたな」


殺された。
その言葉に私の身の毛がよだつ。

生きるか死ぬか、そこに立たされた彼らと私たち。


私は…名も知らない探索部隊の人たちを、助けたかった。



「…」


アレンも同じ気持ちだったみたいで、顔を歪めて町を見下ろしている。
そんなアレンに対し、神田は呼びかけた。


「始まる前に言っとく。お前が敵に殺されそうになっても、
 任務遂行の邪魔だと判断したら、俺はお前を見殺しにするぜ!」


その言葉に、もう苛立ちも何も感じなかった。


「戦争に犠牲は当然だからな。変な仲間意識持つなよ」


あくまで神田は、自分の意志を曲げない。
犠牲、命、すべて私が体験しなかったことがこの世界では当たり前になっていくんだね。


「嫌な言い方」


分かってたはずじゃないか。
神田がこういう言い方しか出来ないのを。
だって、だって


The☆ツンデレだぜ!?


まぁそういうことなんだけど…神田の心の内が分からなくなってる。
本当は、私のことも面倒なんじゃないのかな。
私がいるから、大変なんだよね? 任務だって私を庇いながらで…。

私が犠牲になれば、神田は楽になれるんだよ。





ドンッ……



私の煩悩をはき消すような大きな音が響いた。


「この音…まさか!」


私が言い終わる前にアレンが駆け出して言った。


「アレン!?」


私はアレンを追おうと前に出ようとしたが、神田が腕を掴んだ。


「行くな、ここで待て」
「ッなんで! 神田はアレンを助けないかもしれない、でも私は助けたい!」


振り払い、私はアレンを追う。神田もまた私を追いかけてくる。


そうしてやっと廃虚の崩れかけた屋根まで行くと、アレンとアクマが対峙していた。

あれは…。


「レベル…2…!」


成長してる!やっぱり…探索部隊の人たちは…!

アクマの足元には…探索部隊の人たちが血まみれになって倒れていた。
見ていられない、だけど目は逸らせない…!


神田も私に追いついた。


アクマはアレンの姿を認めると、にこりと…おぞましい笑いを見せた。

そして、殺気を纏いつつ…


「何お前?」


脚を振り上げ


何よ?


思い切り蹴り飛ばした。


「アレン!!」


アレンは建物の奥に消えていった。
あれはやばい! 喰らったらひとたまりもないって! それなのにあんな華奢な体にすごい一発…!


「あの馬鹿…」


アレンのその行いに、神田がそう毒気つく。


なんとなくだけど、神田が言いたいことがわかる。
ソフィアのときと同じ。レベル2なら…能力があるかもしれない。
それなのに無理につっこむなんて無謀なこと。

だけど、きっとアレンは放っておけなかったんだよ。目の前で苦しむ人たちを、痛めつけているアクマを。
私にだって分かる。目の前でこんな惨劇が広がっているんだから。



「あの結界装置で守られてるのが人形か…」


結界の中に、確かに人は見える。上空はアクマが…。


イノセンス、発動


私はゆっくり『神空』を発動させた。


「私、行くね」
「行くな…アクマを壊せないお前が行って何になる!」
「私の力は“護りの力”だよ。今…護るべき時でしょう!?」


私は神田の目を見た。ねぇ神田、何でそんな顔するの。悲しそうな、でも戸惑ってるそんな目。
やっぱり私は、神田にとっては重たい存在だよね。神田の性格で、何で私と一緒にいてくれたんだろうって思うよ。


「…神田」
「…」
「私が神田と一緒にいると、満足に戦えないでしょ」
「なっ!」


目を見開く神田、すぐに私は目を逸らす。


「守られないように、犠牲になるよ…私が!」


そうしてそこから飛び降りた。風を調節しながら、着地は何とか成功。


アレンはどうやら無事で、立ち上がりアクマを睨んでいた。
だけどその目はやがて、怪訝なものを見る目に代わった。


エクソシスト、エクソシスト、エクソシスト…。えぁううううう〜〜〜うぅ〜っ!!


完全にコイツ、気が狂ってる! クレイジーアクマだよ!
ソフィア+アンジェラとは全く違うじゃん! あの子達は綺麗で大人気があったのに…。

まるで子供。幼児みたいだな…!


うっへへ、エクソシストォ…ごろずぞぉ〜


今度は腕をアレンに振り上げて攻撃しようとする! させるかー!!


一龍『銀』護ノ銀!!


私はアレンの前に出て攻撃を防ぐ!


「だいじょうぶ!? アレン!」
さん!?…あ、はい!ありがとうございますっ」


攻撃を押し返し、体勢を整える。


その時断末魔が響きわたった…これは、アクマの叫び声?


ギャアァアァァァァァァァァ…アンv


アンvって何だ―――――――!! 何の快感だよ!


そう思って空を見上げると、六幻発動させた神田が飛び上がっていた。


六幻、災厄招来! 界蟲『一幻』!!


召された蟲たちは、次々とアクマを破壊していく。神田も乗じてアクマを切り倒す。


「あーっ!? もう一匹いた!」


神田は結界のほうに近づいた。私もその光景を見やる。


「ッまだ生きてる!!」


私は倒れている探索部隊に近寄った。


「大丈夫ですか!」
「来てくれたのか……エクソシス…ト」
「タリズマンの解除コードを教えろ。お前達の死を…無駄にしたくないのなら」


神田がそういうと、探索部隊の人は満足そうな顔をした。


I Love Lenalee.――お前の黒さにメロメロDA☆…だ」
うぇ!?
い!?


神田も私もビックリだ! な、なんじゃそりゃぁ!
神田なんて赤いのか青いのか良くわかんない色に顔を染めてるぜ!?


あ、あいらぶって…
「ほ、☆が一番…重要だ…
「ふざけんな…! なんでそんなコードにしやがった!」
ふざけてなんかいない! 私はいたってまじめ―――グフォァ!


盛大に血を噴出してぶっ倒れる探索部隊さん。鼻からですよ、興奮しすぎて鼻血出てんじゃないですか!?
あーそうか、君は女王の家臣だったんだね、きっと!
リナリーの命令で、そうしろっていわれてたのね! さっすが黒の教団、女王!


「ふっ、こんな事も…あろうかと…第2コードだ…『Have a hope…希望を持て』…」
最初からそれを教えればよかったのに、あなた!
「頼んだぞ、エクソ、シスト…」


それだけいうと、彼は気絶した。顔は至って…満足そうだ…!
でもよかった…気絶なら何とか!

私はポケットから包帯を取り出し、止血だけする。
え、この包帯? そりゃあなた、4次元ポケットですがな!
鼻にもちゃんと鼻栓をして…



私は、結界と向き合ってコードを唱える。
すると結界は溶けるように消え、中の2人がこちらを見ていた。
女の子のほうは、後ろの人を庇うように私を見ている。


「あ゛ーーーー!人形ちゃんが…」


アクマが抑揚の無い声でそういう。
そんな2人に神田は「来い」といい、立ち上がらせた。
そして彼らを抱えて軽やかに屋根の上に上がっていった。


うーーー


アクマは落ち着かないようにキョロキョロし…目をかっと見開いていった。え、挙動不審!


ごごご殺じたい、殺じたい殺じたい殺じたい殺じたい殺じたい!!


殺人衝動が頂点に達したんだ…ありゃぁ!
すっごく不気味…まるで子供みたいなアクマだなぁ;


「とりあえずお前を殺じてからだ!! そっちは後で捕まえるからいいもん!」


アレンは神田を見上げた、私も追うように見る。


「助けないぜ。感情で動いたお前が悪いんだからな。1人で何とかしな」


冷酷な言葉にアレンは全くとして動じなかった。
その目は倒れている探索部隊に向けられていた。
すごく、強い目……。


「いいよ置いてって」


そのまま強く、呟くように言い続ける。


「イノセンスが君の元にあるなら安心です。僕はこのアクマを破壊してから行きます」


どうもアレンはアクマに何かしらのこだわりがあるみたい…。
凄く強く、堅い意志みたいなのが見える。

神田はふぅと息をつき、今度は私を見た。


、お前も来い!」


強い口調にビクンとする。う、…できればご一緒はしたくない!
それに…アレンを一人にはしておけない!


「ッ…私はアレンとここで戦う!」
「馬鹿野郎! そいつは1人でやれる、さっさとこい!」
「嫌だ! 神田とは行かない! 神田だって1人でいいじゃない!」


重荷にはなりたくない!
神田がなんと言おうとも、私は首を縦には振らない。
痺れを切らした神田が私のところに来ようと、飛び降りようとした時アレンが口を開いた。


「神田! さんは僕が連れて行きますから大丈夫です! 早く行ってください!」


アレンのその言葉に、神田ちっと舌打ちし、暗い空を駆けていった。
最後の最後まで、私を睨みつけていたけれど。


「うぉーーーーーー!!」


アレンがアクマとぶつかり合った…!
他の悪魔が寄ってきてる。アレンの戦いの邪魔はさせない…!


二龍『風』護ノ風!!


暴風が私とアレン、レベル2を囲むように吹き荒れる。
ふふん、さすが秀才型! すっばらしいね☆


さて、アレンとアクマの激しいぶつかり合いはお互いが吹き飛ばされても続く…!
くぅ! やっぱりあのアクマ強いな…それに能力はなんなの!?
全然分からない…。


「黒姫…あんたにはわかる? あのアクマの能力」


まぁ分かってても、私には通じないから意味無いんだけど。


アレンは吹き飛ばした石に乗り、アクマの死角に入り込んだ!
よし、これならいける!!


「おおおおおおっ!」


アレンの渾身の一撃がアクマを裂いた…。



「うっしゃぁ!! アレーン!」


私はアレンの元に駆け出す!

さぁ! アレンの胸へレッツダーイブ☆

の、つもりだったのにさ!


「駄目です! さん! 来ないで!」
「え、何その全力の拒否!


ちゃん傷ついたぜ!? ガラスのハートがズタボロだぜ!?
もう盗んだバイクで走り出しちゃうぐらい、ぐれてもいいですか? いいんですねアレン!


ちょっち傷付いたよ、しょーねん…
「違うんですさん、僕は寧ろさんを抱き…そーじゃないん…ッ!」


何かが歪み、その何かがアレンの右肩を深く掴んでいた。滴っていく血…!
私は思考回路が一瞬停止した。
え、だって…


「アレ、ン?」


攻撃してきたのが…アレン本人だもん!!
どういうこと…! まさか!


私は倒されたはずのアクマを見る。
…なんてことっ!? アクマはすっと消えていった! 黒姫もティムも驚きだ!

アレンは捕まれた肩の苦痛に顔を歪ませた。


「…くっそ!」


アレンが左腕で奴を攻撃するが、軽やかに避けられてしまった。


「へへへへへ、映したぞぉ」
「!」
「お前のチカラ…」


そういって見せびらかす、アレンの左腕!
うわ、何アイツ!あれか!


変態!
「ヘンタイっていうなよぉ!」


すかさず泣き声で、その腕を使ったツッコミが入ってくる!
あぶない! 当たったら死ぬわ、死ぬ!


「アンタ神田並に馬鹿だね!変態って意味にはいろいろあるの! 私は変身とかそういう意味に似た方の変態っていったのよ!」


ボケも何もなく、いたってまじめに!真っ直ぐに!!


「あ、そうだったんですか
アレンまで…。ってこんなのどうでもいい! あんたの能力――」
「お前たち、私をナメてただろ」


にやりと笑って、腕を持ち上げるアクマに私たちは呆気をとられた。
っていうかさ、私まだ喋ってますって! 聞いてください!
お前もアレか、神田一族か? 馬鹿なのか!


「私はレベル2! ボール型アクマと違って能力に目覚めてんだぞ。つーか私も今知ったんだけど」


今知ったのかよ。じゃあ誇るなよ!
ってことはまだ、進化したばかりなのか…。だったら能力を使いこなせないうちに倒せば!

でも…アレンに変化されたのは厄介だ…あの腕が…ん?
よく見たら…イノセンスの腕…右についてる?


「これが進化した私の能力…」


そうか、こいつの能力は…写し取ることなのか!
変身するんじゃない見たものをそのまま映す…鏡みたいな能力!


「アレ…!」
さあ殺すぞん!!!


アレンにその事を言おうとした時、アクマの顔が酷く歪んだ!
殺人衝動を抑えきれず、快楽へと向かうそんな顔。


呆気を取られていたアレンの隙を、素早くついてくる。気の緩んだ私は、風を止めてしまっていた。


「アレンッ!!」


写し取られた左腕が、アレンを激しく貫いていく。
声を上げる間もなく、アレンは家の壁を突き破って吹き飛ばされていった。
すごい威力…アレンは大丈夫か!?


あ〜〜〜っ気持ちイーー!!
うっわーもろ快感、感じてらっしゃる…正直ひくわー


ええもう、世界の果てまでドン引き?
でも考えたら地球って丸いから、果てまで言ったら元に戻ってるって話なんだけどネ☆

多分、アレンは大丈夫だと思う。酷く飛ばされてるけど、イノセンスで何とか防いでる、はず!


「もう1匹はどうやって片付けようかなぁ〜!!」
「どないしよ…」


此処は黒姫投げつけて逃げるか! あとで報復がめっさ恐ろしいけど…!
黒姫は壊れても、自己再生機能があるし…よし!


「黒姫ー…っていない!?」


何かを察知して遠くに逃げてるじゃないか! というかティムと一緒にいるじゃないか!


え、何この放置プレイ!?


アレン顔のアクマが私の方を向く。やばっ! 口の端が上がってる、ニヤついてる!


「ちょ、ちょーっと落ち着こう、そして話そう!」
「私はレベル2だ。話すことぐらいできるぞぉ」
「うんそうだね! 君は頭がいいから分かってくれるはず!」


冷や汗だらだらですよ! マジで!


「でも、おまえはエクソシスト。私はアクマ。だったら殺す!」
うぅ、そうだ! ほら、アッチ向いてホイに勝ったら殺してもいいよ!
 ほ、ほら! どうせ死ぬんなら、楽しい事をやってから死にたい…


アッチ向いてホイがわかんないのか「うー」と首を捻らすアクマ。
そんな彼に私は親切にルールを説明した。 すると、アクマは楽しそうにして頷いた。


「楽しいならヤる!
「(ヤるってヲイ!)じゃあ、…まず私がやるよ」


ふふふふふ、今の内に黒姫とティムに目で合図を送る。
黒姫はふわりと浮いて私のそばに寄ってきた。ティムはジッとして動かないでいる。


「いっきまーす…あっちむいて―――」


じっとアクマの目の前で指を構える。
その時私はわざと視線を左に泳がした。


―――逃げきっちゃる!!


「ホイっ!」


アクマはフイッと右に向いた。成功だ!
私はアクマの死角から『神空』を振りかざす。ええい! ホームランを打つ勢いじゃ!!


4番バッターの猛烈の一打じゃー!!!


ゴンッ!!


あ〜〜〜!!


妙に鈍い音とともにアクマは吹っ飛ばされた。

以外に威力があるのね…神空…! さすがラビとかコムリンを陥没させるだけの力!


「黒姫! ティム! 今のうちに逃げる…ってティムは!?」


ティムがいない!どうして…って考えてても仕方ない!
黒姫と一緒に逃げる!アクマに追いつかれないように逃げないと!


黒姫は私の先を進む。
そういえば、前の任務の時も黒姫がせかすように先導してたっけ?
ってことは…安全な場所に導いてくれてるのかな…?


「黒姫!急ごう、アクマが来る前に!」


私たちは暗い廃虚の中を緊張しながら前へ進む。


アレン…神田、どうか無事で!